Iren Stehli(イレン・ステリ) 写真展「Libuna」

レポート / 2017年11月6日

運命を受け入れ強く生きる女性「Libuna」の生涯を写した作品!

イレン・ステリさんは、東欧を中心に活動するスイス人の女性写真家です。代表作であるジプシーの女性を撮り続けた「Libuna」シリーズをはじめ、仕立て屋の男性を撮り続けたシリーズ、ショーウィンドウだけを撮ったシリーズなど、歴史的にも意義のある作品を多く発表。プラハ市立美術館や、スイスのエルメスギャラリーでの個展をはじめ、チェコ・ブルノの美術館モラヴィアン・ギャラリーに作品が収蔵されるなど、スイスやチェコを拠点に高い評価を得ています。
会場には「Libuna」シリーズの中から貴重なオリジナル・プリント数点を展示。また、写真集も販売されています。
今回が日本初個展、初来日というイレン・ステリさんにお話を伺いました。

イレンさんは、チェコの代表的な写真家Josef Sudek(ヨゼフ・スデック)の膨大なフイルムの整理に、チェコの伝説的な写真評論家アナ・ファロヴァの友人兼アシスタントとして関わるなど、チェコ写真史と深い関わりのある存在です。イレンさんがこれまで撮りためた未発表の作品が、世に出ることを期待しています。

――「Libuna」シリーズは、ジプシーの女性リブナさんとの出会いから死別するまでの約34年間を撮り続けたものですね。なぜ彼女を?

イレン「きっかけは彼女が美しかったからです。ジプシーということよりも、一人の女性として、彼女の人生を撮りたいと思いました。撮影を続けるうちにリブナのことを深く知るようになり、彼女の強さに惹かれました」

写真集に収められた1シーン1シーンを見ながら、リブナとの思い出を語るイレン・ステリさん。リブナと共有してきた34年間を振り返りながら、時おり瞳を潤ませる姿が印象的でした。

――リブナの強さとは?

イレン「一つは忍耐強さです。リブナの夫は給料をお酒に使ってしまう奔放な人でした。裕福ではなかったので食べる物がない状況もありましたが、彼女は文句一つ言わず、受け入れる強さを持っていました。もう一つは、誇りです。夫に頼れない孤独を抱えながらも、彼女は周りに助けを求めず、自分の力で乗り越えようとする強い誇りを持っていました。リブナの運命は、どの女性にも共通している運命でもあります。リブナシリーズを通じて、与えられた人生を受け入れる強さや、無条件の愛情を表現しました」

「これは、リブナが夫と4人の子どもたちの家族6人で住んでいた1Kから、初めて温かいお湯の出る部屋へ引っ越した時ね。インターフォンもあるし、キッチンもちゃんとしたもの。彼女たちにとって良い方向に進んでいた時期です。ただ、すでにこの頃には、リブナたち家族と夫の間に溝ができていたのが、写真から分かります」と話すイレン・ステリさん。この直後、リブナの夫が4年間刑務所に入ることになり、リブナたちは再び引っ越すことに。

――撮影を通して、イレンさん自身にどのような変化がありましたか?

イレン「写真は、人生や現実を自分なりに表現するツールです。また、リブナを通して、自分が経験したことのない世界を知ることができました。『食べる物がない』とはどういうことなのか、置かれている状況で人の価値観は異なることなど。人生において大切にすべきことなど、いろんなことを考えさせられました」

――今後の活動について教えてください。

イレン「リブナシリーズ以外で撮り続けているシリーズがありますし、他にもたくさんアイデアはあります。一方で、これまで撮りためたネガの保存や整理についても考えていかなければなりません。時間をどう振り分けていくかが、これからの課題ですね」

――ありがとうございました。
(2017年10月26日取材)

チェコの写真家イレン・ステリさんの作品や、運命を受け入れ強く生きた女性リブナの人生に興味を持った方は、ぜひ会場へ足をお運びください。

初めての日本について「刺激が多くて頭がいっぱい!京都にも行きました。すごい大雨でしたが、町の様子などはとても好きです」と答えるイレン・ステリさん。

【Iren Stehli(イレン・ステリ) 写真展「Libuna」】
会場①:Orient Occident(日曜月曜休館)
期間:2017年10月21日(土)~11月11日(土)
(火~土)12:00~17:30
https://www.oo-ginza.com/

会場②:Capsule Gallery(土曜・日曜のみ展示)
期間:2017年10月21日(土)~11月26日(日)
(土・日)12:00~19:00
http://www.capsule-gallery.jp/exhibition/index.php