D850企画展 河野 英喜 写真展「伝承の技『石見神楽面』」

レポート / 2017年11月30日

郷土芸能「石見神楽」と伝統工芸品「石見神楽面」作家を捉えた初の写真展!

目を惹くのが、「石見神楽面」を写した大きな作品。闇をバックに姫面や神面、鬼面といった面が浮かび上がる様は迫力満点です。「石見神楽」とは、島根・石見地方で盛んな伝統芸能で、秋祭りの前夜に夜を徹して複数の演目が奉納されるそう。演目に合わせて使われる「神楽面」の種類は異なり、今も複数の作家の工房があります。
島根で生まれたフォトグラファーの河野英喜さんは、幼い頃から石見神楽面の工房へ通い詰め、作家が面をつくる姿をじっと見て過ごしたそう。姫面や鬼面など、面の顔に合わせて変化する作家の表情や、筆を持つ手の筋肉の美しさなど、真剣に対峙している姿が深く印象に残っていると言います。そのため、普段の仕事とは別に、ライフワークとして長年にわたり伝統工芸の職人をフィルムで撮影してきました。
D850企画展の撮影テーマを考えたときに、河野さんの頭に真っ先に浮かんだのが、石見神楽の世界でした。

メインの作品は、石見神楽面の作家の姿を捉えた一枚。面と向き合う作家の凛とした表情や、筆を持つ指先の緊張感が、60インチもの大きなプリントの中に写し出されています。「撮影中、作家にとって僕は違和感でしかありません。僕はできる限り透明人間のような存在になってシャッターを押します」と、河野さん。

会場には「石見神楽面」の作品5点を軸に、「石見神楽面」の作家の姿を切り取った30点の作品が面の制作工程に沿って展示されています。粘土で原型をつくる工程、和紙を貼る工程、着色する工程など、少しずつ面が形を成す様子がつぶさに見て取れます。注目すべきは、被写体である作家の顔や筆を持つ手の、表情や質感。

「子ども心に、対峙している面によって作家の表情が変わる姿に、凄味を感じていました。今回の作品づくりに当たって、ノンストップの撮影にこだわっています。一発勝負という緊張感の中で、作家の姿を演出しようと考えました。恐いくらい真剣な作家の表情や、筆を持つ手の筋肉や質感は美しく、それを写真に収めるのがとても楽しいんです。神楽面も人間と同じ顔を持つものなので、どう立体的に、美しく撮るかを意識しました。一人でも多くの方に観に来ていただき、何かを感じてもらえればと思います」。

これからもさまざまなモノづくり職人の撮影を続けていきたいと語ってくれました。ぜひ会場へ足を運び、河野さんが魅了されたという石見神楽面作家の顔や手の表情をご覧ください。

中央の6点は、粘土で面の原型をつくり、その上から和紙を幾重にも張り重ね、乾燥後に原型となる粘土を壊していく工程を収めたもの。和紙を原料にした神楽面は軽くて丈夫なため、動きの激しい石見神楽にはちょうど良いそうです。

「神楽面は、工房や作家さんによって表情が違うなど個性があります。今回撮影した工房の神楽面は一番顔立ちが美しいと、僕は思います」と河野さん。鬼面であっても、美しさや勢いがあるのだと言います。

会場の中央にディスプレーされている、D850と神楽面。
「初めての写真展、かつ日数が限られていた中での制作のため、準備には苦労しました。いろんなことを自分で決めていかなければならなりません。被写体になってくれた僕の幼なじみが積極的に働きかけてくれたおかげで、石見神楽の保存会の方が、撮影のためと特別に神楽を舞ってくださるなど、町をあげて協力してくれました。感謝です」と河野さん。

会場には、石見神楽面を着けて神楽を奉納する姿を捉えたポートレート集が置かれています。「展示の構成上、石見神楽を奉納している作品を泣く泣く外しました。ノンストップの撮影のため、ダイナミックな髪の動きなどをうまく収めることができました」と河野さん。下の写真は、「黒塚」という演目で、矢を射られた悪狐が相手に向かう場面。

【D850企画展 河野 英喜 写真展「伝承の技『石見神楽面』」】
会期:2017年11月28日(火)~12月11日(月)
10:30~18:30(最終日は15:00まで)
会場:ニコンプラザ新宿 THE GALLERY 1(日曜休館)
写真展情報