大鐘 実 写真展「Jealousy」

レポート / 2018年12月4日

絵画へのジェラシーが生んだ、余白のある写真作品

カメラマンだった父親の影響で写真をはじめた写真家の大鐘実さん。写真は自分を表現する道具だと言います。デジタルカメラの普及でカメラでの表現に悩んだ時期もあったそうですが、サイアノタイプ(青焼き)と出会ったことで再び作品づくりへの意欲が沸き立ったのだとか。

中央の3枚は、葉っぱを使って焼きつけた作品ですが、深海で戯れるクジラの群れのようにも見えるのが不思議です。静物が動物のように見えるのも、写真の古典技法を使った大鐘さんの表現力ならでは。

手前の作品は同じネガを使い、溶剤の割合や焼きつける時間を変えることで濃淡や表情を変える工夫をしている作品です。タンポポの綿毛、トケイソウ、パッションフルーツの花など、身近にある植物が違った表情を見せます。

青焼き独特の青一色で表現された作品は、絶妙の濃淡により奥行きのある世界観を生み出しています。実は大鐘さん、絵画への強い嫉妬心(ジェラシー)を持っていたのだと教えてくれました。なぜなら、絵画は見せたくない箇所を描かなくてもいいけれど、写真は自分の足を使って見せたくないモノが映り込まない場所を探さなければならないから。古典技法を用いることで、見えるものを見えなくできるようになり、自由に表現できるようになったのだと嬉しそう。

「ずっと燻すんでいたジェラシーが克服できました。記録ではなく、記憶に残る作品づくりを心がけています。一枚の画から詩が出てくるような。僕の作品が何に見えたか、どう感じたか、ぜひ皆さんの感想を知りたいです」

灯台をモチーフにした作品。「汚すことで風合いを出したり、ただの記録とは違う、記憶につながる世界が構築できます」と大鐘さん。

大鐘さんの作品で特徴的なのは、余白の存在です。箇所を絞って溶液を塗布することで、見せたい箇所だけがくっきりと焼きついた作品は、ある一面だけを鮮やかに思い返すことができる「人の記憶」に似ているようにも思います。

偶然できるものが好きだと言う大鐘さん。これからもアンブロタイプなど、オルタナティブ・プロセス(古典技法を用いた写真表現)で自由に表現した作品づくりをしていきたいと展望を話してくれました。

会場には、15点の作品が展示されています。大鐘さんは、期間中は毎日在廊しているそうです。
ぜひ絵画のように表現された青焼き写真作品を見に、会場へ足をお運びください。

奥の3枚は、制作途中に漂白することで化学反応が起こり、不思議な模様と色彩が浮かび上がった作品。

左は、作品づくりに使われたネガ。ここに写るタンポポの綿毛が、大鐘さんの手を経ることで絵画のような作品に。

【大鐘 実 写真展「Jealousy」】
会期:2018年12月3日(月)~12月5日(水)
12:00~18:00(最終日は17:00まで)
会場:ギャラリー403(現在は閉廊しています。)

大鐘さんのFacebookページ
https://www.facebook.com/minoru.ohgane