松田 洋子 写真展「たゆとう光」

レポート / 2020年7月23日

~静謐な空間に揺らめく、内なる視線をもたらす光~

会場にて、松田さん。展示タイトルである「たゆとう光」は、今年の春に横浜で個展を開催された際に、お客様からいただいた「松田さんはいつも、たゆとう光を追いかけているね」との感想に由来するそう。普段から、心に響いた言葉はメモし、言葉の引き出しを増やされているとのことです。

心象風景写真の第一人者である、写真家の松田洋子さん。日々の何気ない風景や空間を切り取る中で、ご自身の人生経験に裏打ちされたイメージをも、浮かび上がらせます。穏やかな時の流れを感じさせる空間の中で、揺らめく光を追う松田さんの作品は、音や香り、風、人の気配といった、見る者の五感を刺激します。そして作品の中に、懐かしい記憶や忘れていた感情など、自身の内なる部分を自然と重ねてしまう魅力があります。

――今回の写真展は、昨年に同会場で開催された個展「風になって、光になって」の続編的な要素もあるとのことですが、前回の展示を受けて、発展させた部分を教えてください。

昨年の展示では、探し求めていた風や光が見つかったというところまで表現しましたが、今回は、また光を失ってしまったところから始まります。部屋を漂う光を探す様子を物語仕立てで構成していて、冒頭では頑張って光を探すものの、なかなか見つけられない。頑張っている時は、無駄な力が入っていることも多く、何事も上手くいかないものです。そして、ふっと力を抜いて辺りを見回してみると、探し求めていた光は自分の足元にあったという物語になっています。その背景には、意気込んでいる時よりも、案外力が抜けている時の方が良い写真が撮れるよという、自身へのメッセージも込められています。

メインの展示。力の抜けた自分と向き合った作品群とのこと。他の作品は全て、木目調のフレームで飾られていますが、これらは最も大切にしたい部分であるため、金色のフレームを採用されたそうです。

――人生経験が、創作活動の土台となっているのですね。

そうですね。作品の背景には、私自身の体験が色濃く影響していると思います。例えば、クラシックバレエの経験も活きています。先生方の踊りを間近で見た時、踊り方や顔の位置、所作の美しさなどが照明によって照らし出され、眩く煌めいていて。そういった美しい体験も、活かされていると思います。

――総合芸術としてのバレエは、写真にも通じるところがあるのですね。

あともう一つ影響があるとしたら、子供の頃の記憶です。幼少期は、教会のある学校に通っていて、毎週月曜日には礼拝の時間がありました。ステンドグラスから差し込む光と、パイプオルガンの音に包まれながら賛美歌を口ずさむ。聖書の意味は全然分からないながらも、穏やかで温かな時間が確かにそこにはあって。今思うと、それは私の人生の中で一番いい時期だったんです。だから自然と、洋館や教会に心が惹かれ、シャッターを押すことが多いのでしょうね。

――ご自身の内なる部分を手掛かりとして、作品制作と向き合ってこられたかと思われますが、苦悩した部分などもありましたか?

自分の感性を頼りに、綺麗だなと思える風景を切り取り、一枚一枚の写真を組み合わせることで、一つの物語を作り出しています。自分の中だけで組み立てているので、ご覧いただく方に、見せたいイメージがしっかりと伝わっているのかどうか、迷いながら制作していく点に難しさを感じます。もちろん、ご覧いただく方々の歩んできた人生もそれぞれに異なるので、作品から感じ取るものも人それぞれだと思います。ただ、私の作品とご自身の経験とがリンクして感じられる瞬間があれば、今回の写真展は成功だと思います。

プリントはピクトランの局紙を使用。しっとりとした和紙の風合い中に、キラッと光る部分もあり、今回の作風に合っていたため選らばれたとのこと。局紙特有の生成りのような柔らかな白の発色が、作品に温かさを添えているように感じられました。

―― 今後はどのようなテーマを撮りたいと考えていますか?

光というテーマを、この先も撮り続けていきたいと思っています。それに加えて、今後は撮影地や被写体の背景にある歴史なども勉強し、表層的な美しさを超えたところにあるものも表現していきたいです。地元の横浜で運営している写真教室では、年に1回、写真旅行を開催しておりまして、今年の旅先は世界遺産にもなっている五島列島なんです。五島列島に潜む悲しい歴史も、光とともに作品として、昇華できればいいなと考えています。

見る者の心にすんなりと入り込み、自身さえも忘れていた懐かしい光景を想起させてくれる松田さんの作品を、ぜひ会場でご覧ください。

ステートメント

会場では、写真集もお買い求めいただけます。併せてぜひご覧ください。

【松田 洋子 写真展「たゆとう光」】
会場:リコーイメージングスクエア東京ギャラリーR(火曜、水曜休館)
会期:2020年7月16日(木) 〜 2020年7月27日(月)
10:30〜18:30(最終日16:00終了)

松田さんのWEBサイト
https://ym-photo.jimdo.com/
Instagram
matricaria_yokomatsuda
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