細谷 克子 写真展「海の宝石 -命つなぐとき-」

レポート / 2020年7月29日

~瞬間に凝縮された、生命の煌めき~

会場にて、細谷さん。最新の写真集『海の宝石 -命つなぐとき-』が、会場でお買い求めいただけます。併せてぜひご覧ください!

色鮮やかな海の生きものたちに魅せられ、60歳を過ぎてから独学で水中写真を始められた細谷さん。本展では、赤道にほど近いインドネシアやパプアニューギニア、フィリピンの海で撮影された、小さな生きものたちの写真が並んでいます。その小さな体からは想像できないほどの力強い生命力と、命の煌きが眩しく目に映ります。

――海の小さな生きものたちを被写体として選ばれたきっかけを教えてください。

60歳を過ぎてホノルルでダイビングを始め、水中写真の面白さを知りました。最初はモルディブやグアムなどダイビングの名所を中心に潜り、サメやマンタなど人気の高い生きものを選んで撮影していました。ある時、サメを待っている間にたまたま視線を足元に落とすと、色とりどりの小さな生きものたちが目に留まって。宝石のように輝くその姿を、初めてレンズを通して見た時の高揚感は言葉に出来ません。それからは、小さな生きものたちが多く生息している、赤道直下のインドネシア、パプアニューギニアなどで撮影を行っています。

――――2014年にも同会場で個展「海の宝石」を開催されたとのことですが、今回は副題として「命つなぐとき」とある通り、「生殖」に焦点を当てた作品中心に展示されていますね。

ある時、水中でたがいちがいになってくっついているウミウシを見つけました。その時は何をしているのか分からず、とりあえずカメラに収めました。その後パソコンで確認した時、ウミウシの交尾の瞬間であったことに気が付きとても驚きました。大抵のウミウシの一生は1年弱。その内、生殖行動を行える期間はさらに短く、数日から数か月程度。こんなに小さな生きものが、厳しい自然環境の中で懸命に生き、次の世代へと命をつなぐ姿には、形容しがたい美しさがあります。命をつなぐ瞬間を撮る、それが私の創作活動の目的の一つとなりました。本展ではそういった決定的瞬間をとらえた作品を見ていただきたいという想いから、「生きる」「出逢いのとき(交尾)」「命かがやくとき(産卵)」「守る・育む(抱卵)」の4部構成で展示しています。

キャプションには、撮影地、被写体の大きさ、撮影時の状況説明が詳細に記載されています。被写体に関する理解が深まると、より作品に入り込んで楽しめます!

――生殖の瞬間は、まさにウミウシの一生のハイライトなのですね!そのような決定的瞬間を撮影されることは、難しいですか?

ウミウシの交尾や産卵は、季節を問わず1年中行われます。例えばウミガメのように、満月の時に産卵するといった目安もないため、その瞬間に立ち会うことさえ困難を極めるのです。また、運よくその瞬間に巡り合えても、始まったばかりなのか、はたまた終わりかけなのかも見ただけでは分からず、残り時間が読めないところも難しい。だからこそ、アングルなどは二の次で、まずは撮ることに集中するようにしています。これまで1500本ほど潜ってきて、生殖に関わる写真はたったの300枚ほど。一期一会の出会いだからこそ、その瞬間に立ち会えた時にはとても心が震えます。

――出会えた時の嬉しさはひとしおですね。今回の展示の中で、特に印象に残っているお写真を教えてください。

こちらの写真は、ガイドの方とのコンビネーションで撮れた1枚。このモンハナシャコはとても臆病で、普段はトンネルのような巣穴に隠れていることが多い生きものです。ただ卵を抱えている時期は、卵に新鮮な酸素を供給するために穴から穴へと移動します。その移動スピードはとても素早いですし、慎重なのでなかなか穴から出たがらない。そこで、ガイドとアイコンタクトを取りながら待機し、巣穴から出ようかどうしようかとモンハナシャコが逡巡しているその一瞬を撮影しました。撮影後にガイドと「やったね!」と、水中でハイタッチして喜び合ったことは忘れられません。

――ガイドの方との信頼関係で生まれた一枚なのですね!最後に今後の撮影テーマを教えてください。

以前から取り組んできたテーマではありますが、ホヤの撮影に本腰を入れたいと思っています。日本では夏の珍味として知られているホヤですが、実際は色合いも柄も豊富でとても美しい生きものです。インドネシアで初めてホヤを見た時は、あまりの美しさにショックで過呼吸になってしまい、たったの10分間でタンクの半分ほどの酸素を消費してしまったほど!ただ、肉眼でとらえたホヤの美しさを再現することはとても難しい。光が強すぎればホヤが透けて写りませんし、絞りすぎればホヤの柔らかさがなくなってしまう。ホヤがもつ本来の美しさを損なうことなく、私独自の色も出るような撮影をすることが、今後の課題でもあります。

日本名はミカドウミウシ、イングリッシュネームはスパニッシュダンサーという、ウミウシの一種。日本にいる個体は、成長しても全長12センチほどとのこと。だが、こちらのインドネシアの個体は40センチほどもあるとのこと!自然環境が及ぼす影響力には驚かされます。

細谷さんの創作活動の根底には、海の生きものたちとの一度一度の出逢いにかける真摯な思いや、生きものへの温かな愛が溢れているように感じられました。海の生きものたちが放つ生命力を、ぜひ会場で感じてみてください。

ステートメント

【細谷 克子 写真展「海の宝石 -命つなぐとき-」】
会場:アイデムフォトギャラリー シリウス(日曜休館)
会期:2020年7月23日(木) 〜 2020年7月29日(水)
10:00〜18:00(最終日15:00終了)

細谷さんのFacebook
https://www.facebook.com/katsuko.hosoya