~日常を非日常へと変換する、52日間の記録~
2005年に渡英し、ファッション関連の専門大学London College of Fashionでメイクを学び、その後約7年間、現地でメイクアップアーティストとして活動していたユカハイラックさん。帰国後も、トリコ コム デ ギャルソン、writtenafterwards、anrealageなどのコレクションや、『VOGUE JAPAN』や『ELLE japan』などのファッション誌のメイクを手掛けています。
本展では、52日間におよぶ自粛期間に制作した、メイクやボディペイント、スカルプチュア等を写真作品として、壁や半地下の小部屋に展示しています。その作品群からは、日常から得たインスピレーションを、ユカさん独自の視点で非日常な作品へと変換するプロセスを視覚的に捉えることができます。そして、その視覚的な経験は、また新たな刺激へと繋がり、私たちを取り巻く日常への新たな見方を提示します。
――初の個展開催とのことですが、開催に至るまでの経緯を教えてください。
普段はメイクアップアーティストとして活動していますが、今年の4月6日から5月27日までの52日間は、コロナ禍による自粛に伴い仕事もストップし、時間を持て余していました。なので、その空いた時間を使って、隣に住んでいるアシスタントのメユちゃんと自身の身体パーツにメイクやボディペイントを施したり、以前から興味のあったスカルプチュアに挑戦しました。ほぼ毎日、平均3~5作品作っていました。
当時は、展示の形で発表することは考えていませんでしたが、その制作の記録は残したいという思いがあったので、自身で撮影を行い、写真集も制作しました。写真集に関してはパソコン教室に通い、作り方から勉強しました。また、そんな挑戦の日々の中で、素人だからこそ表現できるものもあるのではないかと考えるようになりました。自分の職業であるメイクもそうですが、仕事として向き合い、経験や知識を身に付けることで、まっさらな状態の時に純粋にカッコいいと思っていたことが表現できなくなってしまう瞬間があると思うのです。なので、今の自分がかっこいいと思うものを展示の形で発表してみました。
――なるほど。今のユカさんが表現したいカッコいいものとは?
日常の中で目にする「違和感」を作品で表現したいという思いがあります。というのも、約7年間のロンドン生活を終えて帰国した後、以前は気が付かなった東京のアンバランスな魅力が気になるようになったからです。例えば、近所のネオンサインが草木に埋もれている光景を目にした時、人工的なグロテスクさと自然の生命力とが組み合わさり、とても違和感がありました。一見普通ではない光景が、当たり前のように日常に馴染んで同化しているところなど、とても東京らしいなと思うのです。そういった気付きは、本作品にも活きています。
また、モデルをやってくれたアシスタントのメユちゃんが、良い意味で東京のB級感を纏った雰囲気のある女の子だったのも良かった。本作品で見せたかったイメージと、メユちゃんの存在が上手くリンクしたからこそ、面白い化学反応が起こせたのではないかと思います。
――ロンドンという比較対象があるからこそ、見えてきた部分なのですね。
それはあると思います。またファッション業界に身を置いていると、他ジャンルのアーティストと交流する機会が意外と少なく、あまり作品の幅が広がらない部分がありました。なので、帰国後は様々なアーティストが出入りする場所へ意識的に顔を出すようにしています。そこでも多くの刺激を受けました。
――どんなアーティストとの出会いがあったのでしょうか?
例えば、アロエにタトゥーシールを貼って、その木が枯れて変化していく様子を撮影しているフラワーアーティスト。その他にも、いわゆるストリートアート界隈の方々との交流が増えた印象があります。彼らに共通しているのは、アートが日常に同居しているところ。ロンドンで活動していた時はコンテンポラリーやミニマルアートが好みでしたが、彼らと接する中で変化が生じ、本展ではコンテンポラリーとストリートとの両方の良さを反映した展示にしたいという狙いがあります。
――そういった意図は展示構成にも表れていますね。半地下の小部屋の空間には、ユカさんのアートへの熱量が充満しているように感じます!
半地下の小部屋の床に散りばめた作品と、壁一面に貼り付けた作品のどちらも、自粛期間中の私の部屋の様子を再現しています。さらにブルーシートも敷いて、汚れも気にせず創作にのめり込んでいました。当時は作品がどんどん増えていくのが肌で感じられて楽しかった!このプリンターも実際に使用していたもの。プリントがちょうど出てきている感じなど、ちょっとした演出としてこだわっている部分です。
――本展では「記録」が一つのキーワードとなっていますね。ユカさんの作品制作において、写真が介在する意味はどこにあるのでしょうか?
写真を撮るという行為が目的ではなく、自分の作品を残していくためのツールとして、写真を捉えています。本展ではスピード感も重視していたため、自分自身で全ての撮影を行いました。また、展示や写真集の形で自身の作品を発表したことで、今まで出会う機会のなかった方々にも作品を見ていただけたことが1番良かった点です。というのも、私の軸足はやはりファッション業界にあるので、その他の業界の人の目に触れる機会を作ることはなかなか難しいのです。また、来場されたお客様から「私もやってみたい!」との声があったのも、とても嬉しかった!私の作品が、また次の人の創作の刺激や原動力になってくれたら、私たちの日常はもっと面白くなると思うのです!
本展では、写真がもつ「記録性」という特性が効果的に作用しています。展示タイトルである「52 days visual diary」、日記といえば普通は言葉で日々の出来事を綴るものですが、本展では写真で記録されています。写真が介在しているからこそ、「東京」という都市の日常に潜むある種の違和感が、作品として昇華される過程を、私たちは写真から見出すことが出来るのだと思います。言葉よりも強烈なその刺激を、ぜひ会場で感じてみてください!
【ユカハイラック 写真展「52 days visual diary」】
会場: America-Bashi Gallery
会期:2020年8月19日(水) 〜 2020年8月24日(月)
11:00〜19:00(最終日は17:00まで)
公式ホームページ https://americabashigallery.com/
ユカハイラックさん 公式ホームページ http://yukahirac.com/
Instagram https://www.instagram.com/yuka_hirac/