和田 悟志 写真展「Invisible Border」

レポート / 2020年9月5日

~可視領域を切り取る写真が見せる、不可視な気付き~

会場にて、和田さん。

福島県で生まれ育ち、大学入学と同時に上京。早稲田大学第一文学部を卒業後、箱根駅伝をはじめとする陸上競技関連の記事執筆に長年取り組まれている、スポーツライターでもある和田さん。作品制作にも精力的に取り組まれており、本展「Invisible Border」は、同タイトルで2014年と2017年の2回、TAP Galleryにて個展を開催されました。

本展では、かつて日本の統治下にあった歴史をもつ、台湾と中国東北部(旧満州)の2都市の景観を切り取った作品が展示されています。都市開発の現場や生活に密着した建造物など、和田さんが写し出す作品からは、現地の日常が垣間見えます。また、いずれの景観も水平垂直な構図で切り取られており、その均一な画面の連なりからは、2都市の間に存在する「差異」が顕在化されます。

――台湾と旧満州にあたる中国東北部を撮影された経緯を教えてください。

2012年から中国の撮影を始めました。画一的な建造物が多いイメージがありましたが、街中にはIKEAがあったりと、資本主義を彷彿させるような光景が広がっており、そのギャップから中国に興味を持ちました。その後、2014年の「ひまわり運動」や2016年の「総統選挙」などで、かつて台湾の国民が民主主義を勝ち取るに至った歴史に興味が湧き、台湾の撮影も始めました。

中国の画一的なイメージを象徴するかのような、均一なマンションが建ち並ぶ。「撮影時の気温は、マイナス20~30℃。よく見ると吹雪いているんです(笑)」と和田さん。

同じ中華圏である2都市には、歴史的背景にも共通項があり、当初は似ている部分に目が行きましたが、撮影を重ねる中で、風土や文化、政治的な部分での違いが浮かび上がってきました。

――その2都市を撮影する際、ある程度、狙いをつけた上で撮影に向かわれていたのでしょうか?

ここは狙って撮影に行きました。台湾の花蓮は大理石の産出地で、石材が積み上がっている場所があるだろうと見当をつけていましたが、こういった光景が広がっているとは実際に行くまで思いもしませんでした。また、来場されたお客様曰く、大理石よりもパイプラインの方に目がいくとのことです。僕は大理石目当てで撮影に行ったのですが(笑)

火力発電所。開発の象徴というイメージから、ここも狙って撮影に行かれたとのこと!

――現地の日常が垣間見えるような作品を中心に、構成しているのですね!

今回はわかりやすさを重視し、台湾と中国東北部の「差異」がより明確化するよう、シンプルな構成を意識しました。トーチカなど統治時代につくられたものや戦闘訓練を行う模擬訓練場なども撮影していますが、それらを加えてしまうと強い意味合いも生じてしまうので、今回はあえて加えませんでした。

分かりやすさという観点から、前半に台湾、後半に中国の作品という流れで展示されているとのことです。

――都市開発の現場など、「変化」の瞬間をとらえたモチーフも目立ちますね!

訪れる度に、景観が変化していることがよくありました。僕が撮影した光景も、今はもう存在していないかもしれません。目の前にある変化からは逃れることが出来ないので、受け入れざるを得ないのだと改めて思い知りました。

―― 撮影時、特に意識していたことを教えてください。

「フラットな視点」を常に心がけていました。瀬戸正人さんの「picnic」という作品がとても好きなのですが、この作品の根底には、それこそフラットな視点があると思います。公園の一角でシートや草むらに腰をおろし、一緒の時間を過ごしているカップルたちをとらえた作品群なのですが、全て一定の距離感、似たアングルで撮影されていることで、それぞれのカップルの個性がより鮮明に浮かび上がっています。僕の撮影対象は風景ですが、そういった撮影時の意識は近いところがあると思います。

水平垂直な構図 の作品が多く見受けられます。

同じ視点で撮影しているからこそ、差異が明確化します。僕の作品に水平垂直な構図が多いことの背景には、こういった意図もあるのです。

――本展のタイトル「Invisible Border」には、「見えない境界線」といった意味合いがありますね。

中国と北朝鮮の国境に位置する町・丹東。タイトルを象徴するような1枚です!

本展のタイトルやテーマには、何重にも意味合いを設けています。単純に台湾と中国東北部との対比というだけではなく、“統治していた日本”と“統治される側だった台湾と旧満州”という「中央と周縁」という構図も含ませています。また、この構図は私たちの日常にも当てはめられることだと思うのです。例えば、僕は地元・福島の撮影も継続的に行っていますが、東京と福島という2都市の関係性について考えた時、そこからも「中央と周縁」という構図を見出すことができます。そして、このことはもちろん福島に限った話ではありません。本展から何を見出すのかは、観る側の視点に委ねたいと考えています。

本来写真は、撮影者の目の前に存在する「今」しか写すことが出来ません。しかし本展では、その限られた瞬間の中に、台湾と中国東北部との差異や、変化の過程、そして、そこから見出される私たちの日常への気付きという、多くの要素が詰め込まれています。ぜひ会場に足を運び、本展から何が見出されるのか、ご自身の目で確かめてみてください!

【和田 悟志 写真展「Invisible Border」】
会場:PLACE M
会期:2020年8月31日(月) 〜 2020年9月6日(日)
12:00-19:00
https://www.placem.com/schedule/2020/main/20200831/exhibition.php

和田 悟志さん WEBサイト  https://wadamap.com/