石井 祐子 写真展「River」

レポート / 2020年9月19日

~被写体越しに見出されるつながりを写し出す、繊細なモノクローム~

会場にて、石井さん。会期中は毎日在廊予定とのこと!ぜひ会場へ足をお運びください。

2013年から写真を始められた、石井さん。写真家・横木安良夫さん主宰のワークショップの受講をきっかけに「人を撮りたい」という作品制作の方向性が定まられたとのことです。

本展では、2019年7月にドイツで結婚式を挙げた娘さんの姿をとらえた作品を中心に、モノクロ作品25点が展示されています。美しい瞬間が切り取られた作品からは、像として写し出されることのない、何世代にもわたり続いてきた「家族の繋がり」までをも見出すことができます。その背景には、石井さんの作品制作にかける思いが潜んでいました。

――主な撮影対象は「人」とのことですが、人物を撮影されるようになったきっかけは何でしたか?

横木さんのワークショップでストリートスナップの撮影を行ううちに、景色の中に人が入ると作品にストーリーが生まれるということを知り、心惹かれました。とはいえ、最初は見ず知らずの人を撮影することに抵抗があり、事前に撮影許可を得てはいるものの恐々と後ろ姿ばかり撮影していました。ただ、人の表情を写すことで表現できるものもあると思い、正面からの撮影にも徐々に挑戦するようになりました。本作品の被写体は娘なので、思う存分撮影しました(笑)

――作品として発表されることを前提に、結婚式の撮影に臨まれたのでしょうか?

実はそうなんです。横木さんには「娘のハレの日まで作品として写真を撮るなんて自己中だ!」と笑われてしまいました(笑)発表することを意識した時、母親目線の家族写真や、美しい姿を記録するためのウェディングフォトとは異なる、俯瞰した視点での撮影を決めました。そのためには、被写体である娘に母親としての気持ちを重ねないということが重要でした。

――娘さんの結婚式というシチュエーション的にも、母親としての心情を排してカメラを向けることには難しさもあったのではないでしょうか?

自身がどう感じるのかということはその時にならないと分かりませんでした。実際にカメラを向けてみると、娘が被写体であるはずなのに、カメラ越しに別の何かを見つめているような不思議な感覚を覚えました。その正体は、私の過去にありました。実は、私と夫は駆け落ち同然に結婚したため、両親に花嫁姿を見せていません。そういった経緯もあり、意図せず両親への思いが前面に出てきてしまったのです。つまり、娘越しに母の存在を見ていたのですね。娘の結婚式を客観的にとらえた作品を制作しようと撮影に臨んだのですが、その軸に変化が生じました。

石井さんのお母様を撮影された1枚。

――撮影時、ご自身の過去が想起されたことには何かきっかけがあったのでしょうか?

娘が結婚式を挙げた街の近くに、ライン川が流れていました。そのほとりに立ち、雄大な川の流れを眺めているうちに時の流れが連想され、自身が今どこに立っているのか分からなくなるような錯覚に陥りました。そんなことを考えながら10日間過ごしているうちに、自身の存在も連綿と続いてきた家族の繋がりの一部であったのだと改めて気付かされ、作品に変化が生じたのだと思います。

本展のタイトル「River」には、ライン川、時の流れ、家族の繋がりなど多くの意味合いが込められているとのことです!

――本作品は全点モノクロで構成されていますが、その意図を教えてください。

普段の作品制作でもモノクロが多いです。カラーは主張が強く、鑑賞者に与える影響も大きいという特徴があります。鑑賞者が作品に自身を自由に重ね、そこから想起された感情を温めながら、ご自身の世界に入っていってもらえるような写真を撮りたい。私の作品制作の根底にはこの思いが常にあり、そういった点でモノクロとの親和性が高いのだと思います。

――モノクロであることで情報量が厳選され、鑑賞者が作品に自身を投影する余地も生まれているのですね!

そういった側面もあると思います。また、被写体から発せられる空気感など、目には見えない部分まで写し取りたいという思いもあります。

結婚式の準備をしている娘の姿を撮影する中で、楽しそうな笑顔の裏側に潜む、一抹の不安や寂しさなど、言葉にならない感情も感じ取りました。その時、被写体の持つ感情や空気感など、目の前の光景に存在する可視化できない部分まで写し撮りたいという思いが芽生えました。

ウェディングケーキ入刀の瞬間を撮影した1枚。「娘のことを憧れの眼差しで見つめている子どもたちや、その周りを囲む人々の表情がとても良かった!そういった会場の空気感を撮影したので、主役の二人は完全に脇役です(笑)」と、石井さん。

本展からは、いくつもの「つながり」が見出されます。祖父母、父母、子と連綿と続く「家族の絆」、その背景に横たわる膨大な「時の流れ」。そういった目には見えない部分が作品から見出されるのは、石井さんがこれまで歩まれてきた人生と作品で表現されているものとが、一筋の線のように繋がった整合性によるものだと思います。ぜひ会場で、作品をお楽しみください!

本作品が収録された写真集を会場でお買い求めいただけます。あわせてぜひご覧ください!

ステートメント

【石井 祐子 写真展「River」】
会場:Jam Photo Gallery
会期:2020年9月15日(火) 〜 2020年9月27日(日)
12:00-19:00(日曜17時まで)月曜休廊
https://www.jamphotogallery.com/

石井祐子さんと本展のディレクションを担当された写真家・横木安良夫氏、Jam Photo Gallery主宰・写真家の鶴巻育子による対談動画はこちら
あわせてぜひご覧ください!