~波の軌跡の重なりから見出される、肉眼では捉えられない波の表情~
熊野 淳司さん写真展「なみいろ」が、2020年10月14日(水)まで東京都 東銀座にあるキヤノンギャラリー銀座 で開催されています。熊野さんは、神奈川県藤沢市で生まれ育ち、17歳のときにサーフィンと出会い、その後、大学時代には写真にも取り組み始めました。
2008年にフリーランスフォトグラファーとして本格的に活動を開始され、2017年には湘南で「STUDIO467」を立ち上げました。2009年から約1年間ニュージーランドを旅された経験もあり、その中で山の魅力を知り、現在では海だけでなく山の撮影にも精力的に取り組まれています。
本展では、故郷の地である湘南の海をスローシャッターで撮影した作品が展示されています。露光時間を長くすることで、波の軌跡が多様な色や質感をともない 1枚の画の中に収められています。そこからは、肉眼ではとらえることのできない波の新たな一面が見出されます。
――本作は全てスローシャッターで撮影されたと伺いました。スローシャッターを使い始めたきっかけを教えてください。
サーフィンの撮影は、往々にしてハイスピード撮影で行います。なぜなら、ハイスピード撮影であれば水飛沫の一つ一つまでぴたりと止めて撮影することができるからです。ですが、とある夕方の撮影時、日が落ちてきたのでスローシャッターで撮影を行ってみたのです。そうしたら意図せず見たことのない波の画が写し出されました。これは面白いと思い、約3年かけて本作の撮影を行いました。
――熊野さんは写真家であるとともに、サーファーでもありますよね。波と対峙する際、それぞれに共通する感覚などはあるのでしょうか?
本作は基本、泳ぎながら撮影しました。撮影時の波に揺られる感覚は、サーフィンで波に乗っているときの感覚と近いものがあります。全身で自然のエネルギーを感じるような感覚です。
――では反対に、波を被写体としてとらえたからこそ感じられたことはありましたか?
遥か遠くの沖と地元の海とがつながっているということを実感しました。波は遠く離れた沖で生じ、長い旅をする中で大きなうねりとなって地元の海に届きます。この気付きは、写真を介して被写体である波に想像をめぐらせたことにより初めて得られました。
――サーファー、そして写真家として、20年以上海と向き合い続けてきたその原動力はどこから来るのでしょうか?
楽しいということが一番の原動力です。海は季節や時間帯、光の加減などにより様々な表情を見せてくれますし、同じ景色は二度と見られないからこそ、いつもワクワクさせられます。それは、サーフィンで波が来るのをじりじりと待っているときの高揚感にも似ています。海を撮影することは、もう僕のライフワークです!
――今後の作品制作で挑戦したいことを教えてください。
4×5の大判カメラでモノクロ作品の制作に取り組み始めました。被写体は川です。川を撮影することで、これまで撮影してきた海や山との地続きなイメージを表現したいという思いがあります。
――地続きなイメージというと、人間社会と自然との関係性も連想されますね。人も自然の一部として他の生命に生かされていますが、日常生活では、ついその事実が意識から抜け落ちてしまうことが多いように感じます。
そうですね。撮影している川の近くには、僕の実家や知り合いの家も多くあり、自然と人との距離がとても近くに感じられますが、都心で生活しているとなかなか自然と接点を持つ機会は少ないかと思います。だからこそ、自然の中に人の営みも垣間見えるような作品を制作したいと考えています。また、これまで海を撮影してきた中で、この綺麗な海をこの先も残していくにはどうすればよいのだろうかと常々考えてきました。そういった環境問題に絡めたテーマでの撮影にも興味がありますし、作品制作への構想は尽きません!
まるで絵画を眺めているような錯覚すら覚える幻想的な本作。その色や質感、光の妙はさることながら、そこから浮かび上がってくる時の重なりに目を奪われます。写真は被写体の瞬間を切り取るというイメージが強いですが、本作では長時間露光により、本来肉眼でとらえることのできない時の経過まで、波の軌跡により可視化されています。ぜひ会場で作品をお楽しみください!
【熊野 淳司 写真展「なみいろ」】
会場:キャノンギャラリー銀座
会期:2020年10月8日(木) 〜 2020年10月14日(水)
10:30〜18:30(最終日は15:00まで)
https://cweb.canon.jp/gallery/archive/kumano-namiiro/
熊野さん WEBサイト https://junjikumano.com/biography/