清水 哲朗 写真展「おたまじゃくし ―Genetic Memory―」

レポート / 2020年10月20日

~遺伝子に刻まれた、ふるさとの記憶を辿る旅~

会場にて、清水さん。在廊日に関しては、清水さんのFacebookで情報が更新されておりますので、ぜひ併せてご確認ください!

清水 哲朗さん 写真展「おたまじゃくし ―Genetic Memory―」が、10月21日(水)までオリンパスギャラリー東京で開催されています。

20年以上もの長きにわたり、モンゴルの自然や動物、そこで暮らす人々の営みをカメラに収めてきた写真家の清水さん。写真家・竹内敏信氏に師事した後、23歳でフリーランスとして独立。自然風景からスナップ、ドキュメントまで幅広い撮影を手掛けています。

本作で取り組まれたのは、「Genetic Memory(遺伝的記憶)」を手掛かりとした自身のルーツを探す旅。祭り、食、生活文化、慣習、温泉、寺社仏閣、自然崇拝などに目を向けつつ日本全国を巡り、自身の感覚を頼りに地域を絞っていかれたとのこと。会場には、旅の中で出会った様々な光景が並んでおり、まるで清水さんの旅の足跡を追体験しているような心地が得られます。

――10年以上にもわたり、ご自身のルーツを探す旅を続けていると伺いました。旅をはじめられたきっかけは何だったのでしょうか?

僕の本当のふるさとはどこにあるのだろうか。そんな疑問が常々、頭の片隅にありました。というのも父が東京、母は横浜出身なので、僕にはふるさとと呼べるような場所がないんです。

――「生まれ育った地」と「ふるさと」は、異なるということなのでしょうか?

幼い頃に昆虫採集に明け暮れた地元の小さな自然は、自身のルーツの延長線上にあったと思います。ですが、都市開発により当時の面影はなくなってしまったため、戻りたくても戻れないのが現状です。帰る場所を持たないということは、首都圏で生まれ育った人ならば、少なからず直面する悩みかもしれません。ただ僕の場合、ふるさとがないことを嘆くのではなく、ないのであれば探しに行こうと思い立ち、途方もない旅がはじまりました。

――では、どのように「ふるさと」を探されたのでしょうか?

まずは家系図をたどってみましたが、せいぜい3世代前くらいまで遡るのが限界でした。次に、身体的特徴に注目しました。北方系、南方系という分け方で考えたとき、僕は北方系の特徴を多く持つことが分かりましたが、それだけでは曖昧すぎました。なので他の手段を模索していたとき、DNAに自身のルーツを知る手がかりが残っているのではないかと思ったのです。「Genetic Memory」と呼ばれるDNAに刻まれた記憶には、先祖の経験や記憶の一部も含まれているとのことなので、自身の中に眠るそれらの記憶を手掛かりに旅をすれば、いつかふるさとに辿り着くのではないかと考えました。

ですが、最初は雲を掴むような旅でなかなか手応えを得られませんでした。2007年には、本展の前身となるような個展「ひだまり」を開催しましたが、本腰を入れて本作と向き合いはじめたと言えるのは、東日本大震災後からです。

――東日本大震災は、本作にどのような影響をもたらしたのでしょうか?

津波はあらゆるものを押し流し、震災以前から何度も訪れていた場所も壊滅的な被害を受けました。ですがそんな状況下でも、故郷の地で生き続けることを決めた人々の姿がそこにはありました。その郷土愛を目にしたとき、そこまでの思いを人々に抱かせる「ふるさと」というものが、とても欲しくなってしまったのです。ふるさとへの憧れを胸に、再び日本各地を旅しました。

南は沖縄県の阿嘉島、北は北海道の知床半島まであてもなく巡り、それぞれの土地に根付く文化や祭りに触れ、郷土料理や地酒を味わい、そして温泉に浸かったりと、五感を頼りに地域を絞っていきました。その旅の中で、海よりも山、山よりも森に自身が共鳴することが分かりました。そんな頃、青森県津軽の山中で「十二本ヤス」と呼ばれる巨樹に出会ったのです。

――それがこちらの1枚ですね!

樹齢800年を超える、青森ヒバの巨樹。「12本に幹が分かれているのですが、不思議なことに13本目が生えると必ず1本枯れて、常時12本なんです」と、清水さん。

この樹を目にしたとき、雷に打たれたような衝撃がありました。それ以前にも、巨樹や御神木を見たことは何度かありましたが、そんな衝撃を受けたのは初めてでした。12は山の神様に関わる数字なので、それに関係する仕事に僕のルーツがあるのではないかと仮定し、熊狩りを行う山形県のマタギの方々を紹介してもらうことになりました。

まずは話し合いのために山形へ向かいましたが、その場では熊狩り同行への許可はおりず、一旦東京に戻りました。その後、許可はおりたものの予定日に雨が続いたため、今回は中止との連絡がありました。なので、宿やレンタカーのキャンセルを進めていたら「明後日、晴れそうだから来れる?」と、突然連絡がありました(笑) 「行きます!」と二つ返事で新幹線に飛び乗り、翌日から熊狩りに同行しました。仕事の都合で一泊二日しか滞在できず、熊と遭遇できるかは賭けでしたが、無事撮影することができました。

――解体作業の様子も撮影されていますね。

動物の解体自体はモンゴルでも目にする機会があったので、最初は取り立てて目新しさも感じず眺めていました。ですが、首元の月の輪を割いて完全に毛皮を剥いだとき、中から人が出てきたような錯覚を覚え驚きました!それは女性のようでもあり、とても美しい光景だと感じられ、つい見入ってしまいました。

もともと動物が好きで、その死体や剥製にも興味があります。その思いの根源は何なのだろうかと常々考えていましたが、この旅の中で狩猟をはじめとし、闘牛、闘鶏、クモ合戦など、生き物を扱った慣習に心が惹かれるということに気付きました。生き物の生死に興味があるのだと思います。

――たしかに本展からは、生命の循環もテーマのひとつとして見出されると感じました。

僕自身、死に対して怖いという感情はありませんが、生きたいと渇望する生命力に対して敏感に反応する傾向があります。僕の作品に動物をとらえたものが多いのは、そんな理由もあるのかもしれません。ただ不思議なことに、動物写真家ではないのです。僕の主な撮影対象は、動物たちが暮らす自然と人間社会との間にある里山です。

――それは動物や自然を単体でとらえるのではなく、人間社会との地続きな面も撮影したいからということでしょうか?

そうですね。僕は全ての被写体を同列としてとらえているので、動物や自然、そして人間も同じ目線で見つめています。そこに上下関係はないと考えているので、僕の作品には動物と人間、どちらの営みも自然と写り込んでいるのだと思います。

右の作品は、新潟県村上市で行われている鮭の人工授精の光景をとらえた1枚。「川で生まれ、海で育ち、3~4年後には母なる川へと戻ってくる鮭。故郷の匂いを覚えているのか別の理由で戻ってこれるのかは未だに謎とされている」(キャプションから引用)これらの作品からは、生命の循環の流れが垣間見えます!

――本作の旅は、今後も続いていくのでしょうか?

本展は、10年以上もの旅を経ての第一回報告会のような位置づけです。今後も旅を通して自身のルーツをより深くまで探っていきたいですし、動物に関する取材はふるさと探しとは関係なく続けていきたいと考えています。つまり本作は、僕の生涯のテーマです!

――まさにライフワークですね!

そうですね。僕のルーツがマタギにあるのかどうか定かではありませんが、マタギの鉄砲をカメラに持ち替えて生業としているのではないかとも思うのです。英語では、射撃も撮影も「shooting」ですから(笑)

ふるさとを探す旅は、自分自身についてより深くまで知ろうとする行為にほかなりません。そして自分自身を知るということは、自身が生きる意味を見出すことでもあると思うのです。何のために生まれ、どう生きるのか。ぜひ会場へ足を運び、ご自身の中に眠る「Genetic Memory」と共鳴する光景を探されてみてはいかがでしょうか。

会場では、本作の写真集も発売中です!(清水さんのWEBサイトからもご購入いただけます!)本展の展示作品数は42点ですが、写真集には90作品掲載と充実した内容となっており、より細部まで旅の流れを知ることができます!500部限定ですので、ぜひお早めにチェックしてみてください!

【清水 哲朗 写真展「おたまじゃくし ―Genetic Memory―」】
会場:オリンパスギャラリー東京
会期:2020年10月9日(金) ~ 10月21日(水)木曜定休
10:00〜18:00
会場:オリンパスギャラリー大阪
会期:2020年10月30日(金) ~ 11月11日(水)木曜定休
10:00〜18:00
https://fotopus.com/showroom/index/detail/c/2977

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