田中 すみれ 写真展「水うつろう季」

レポート / 2020年10月21日

~水のうつろいを写し止めたことで見出される、自然の循環~

会場にて、田中さん。

田中 すみれ さん 写真展「水うつろう季」が、10月26日(月)までリコーイメージングスクエア東京 ギャラリーR で開催されています。自然の造形美や四季のうつろいに着目し、森をはじめとする自然風景の撮影を手掛けてきた、田中さん。本会場での展示は本展で3回目となります。

主に森や木をテーマに作品制作に取り組まれてきましたが、本作の被写体は水。会場では、氷、霜、雪、雲など、多様に姿かたちを変化させた水の光景が展示されています。それらの作品は、冬から順に四季に沿って並んでおり、眺めわたすことで自然と四季における水のうつろいを体感することができます。

――本作において、水を撮影対象とされた経緯を教えてください。

これまで森の撮影を重ねてきた中で、水はとても身近な存在でした。秋に落ち葉の撮影を行ったとき、落ち葉の浮かぶ水面の写り込みの美しさに魅了されたことを今でも覚えています。なので、森や木ではない被写体に挑戦しようと決めたとき、真っ先に思い浮かんだのは水でした。また四季折々で、氷、雪、雨、霧など、姿かたちを変化させるところも興味深く感じます。

氷や氷柱、雪の光景をとらえた冬の作品群。青のイメージで統一されています!

――本作の撮影はいつ頃から着手されたのでしょうか?

2015年頃から約5年の月日をかけて撮影を行いました。と言いますのも、自然を相手にした撮影ではタイミングが非常に重要なため、作品制作に期間を要するのです。例えば紅葉の撮影では、見ごろを2日外してしまっただけで、もうその年に燃えるような赤い紅葉はお目にかかれないのです。

――撮影者の思惑通りに事が進まないところは、自然風景の撮影における難しさの一つですね。

そうですね。本作の撮影においても、現場の状況に応じた撮影対象の変更は多々ありました。例えば、水辺が凍った様子を撮影しようと現場に向かったものの、氷が張っておらず氷柱の撮影に切り替えたりなど。自然を相手にする以上、必ずしも想定通りの画が撮れるわけではありません。だからこそ事前にイメージを膨らませるよりも、現場での出会いを大切に撮影に臨んでいます。

――本作で撮影されたような光景と出会うために、意識されていることはありますか?

撮影には基本一人で臨むということです。一人のときの方が、全神経を被写体へ集中することができます。本作の撮影時は視覚的な情報だけに目を向けるのではなく、風の音に耳をすませ、雪の冷たさに身を縮こませ、雨が降れば地面から立ちのぼる土の匂いを頼りに被写体を探していました。今の時期の森では、鹿の鳴き声が聴こえると思いますよ。

秋の作品群。水面の写り込みが美しく引き込まれます!

――五感を駆使することで、自然との一体感も得られそうですね!そもそも自然風景の撮影をはじめられたきっかけは何だったのでしょうか?

本格的に写真をはじめてからは、時間が空くとよく都内の写真展を巡っていました。その頃たまたま訪れた森の写真展で、新緑と雪が組み合わさった光景を目にしたときの衝撃こそ、自然風景の撮影をはじめるに至った決め手です。そのとき初めて、雪解けは木の根元からはじまるのだということを知りました。

雨の森をとらえた作品群。他の作品が全て額装されているのに対し、こちらの作品群のみパネルの形で展示されていて目を引きます。「森を感じてもらえるように作品を密集させて展示しました」と、田中さん。

――自然の中には、わたしたちが知り得ない世界が広がっていたのですね!

想定を超える光景との出会いは、自然の中だけではなく身近なところにも潜んでいます。例えばこちらのソメイヨシノは、わたしの地元・群馬県の敷島公園で撮影しました。

今年は32年振りに3月下旬に雪が降り、ソメイヨシノに雪が積もる幻想的な光景を撮影できました。地元でこのような光景を目にできたことは奇跡的な体験です!

――次に撮影に挑戦したい被写体はありますか?

風を被写体とした作品を制作したいと考えています。風は目に見えないものなので、それをどこまで表現できるか挑戦してみたいのです。そこには森や川などの自然も含まれるでしょう。自然が撮影の軸となっているところは、この先も変わらない部分だと思います。

本作では、水が刻々と変化する様子が写し止められており、それらを眺める中で自然の循環も感じることができます。形あるものはいずれも、いつかはその形を失います。無常観も漂う美しい作品の数々を、ぜひ会場でお楽しみください!

会場では本作の写真集に加え、これまで出版された写真集もお買い求めいただけます。ぜひ併せてご覧ください!

ステートメント

【田中 すみれ 写真展「水うつろう季」】
会場:リコーイメージングスクエア東京 ギャラリーR
会期:2020年10月15日(木)~ 10月26日(月)火曜・水曜定休
10:30〜18:30(最終日16:00終了)
http://www.ricoh-imaging.co.jp/japan/community/squaretokyo/2020/10/20201015.html