清野 健人 写真展 「地獄谷の日本猿」

レポート / 2020年11月3日

~生きる喜びを湛える日本猿の眼光~

会場にて、清野さん。会期中は毎日在廊予定とのことですので、ぜひ会場へ足をお運びください!

清野 健人さん 写真展 「地獄谷の日本猿」が、11月3日(火)までニコンサロンで開催されています。 長野県の北部に位置し、冬には最低気温が氷点下10度を下回ることもある地獄谷。清野さんは、そんな厳しい自然環境の中で暮らす、およそ160頭からなる日本猿の群れの撮影に取り組まれています。

本展では、日本猿の日常の姿をとらえた作品の数々や、A0サイズの大迫力なポートレート作品などが展示されています。日本猿の佇まい、表情、カメラへ向ける視線の一つひとつからは、それぞれの生き様が垣間見えるようです。そして、本当の豊かさとは何か、本展を眺めわたす中でその本質にも思いが馳せます。

――およそ5年にわたり、地獄谷の日本猿の撮影を続けていると伺いました。撮影をはじめられたきっかけを教えてください。

もともと動物が好きで、はじめての被写体は近所の保護猫でした。日本写真芸術専門学校写真科のネイチャーフォトゼミで本格的に写真を学びはじめてからも、動物を撮影したいという思いは変わりませんでした。そして、授業の一環で長期的な撮影対象を探していたとき、父親に連れられて地獄谷を訪れたときの光景をふと思い出したのです。当時は、温泉に浸かる日本猿たちの姿が印象に残っていましたが、実際に現地へ通う中で、それ以外の魅力も見えてきました。

――撮影を重ねる中で見えてきた、日本猿の魅力とはなんですか?

最初の頃は良い画が撮りたいという気持ちが強く、地獄谷のダイナミックな自然風景や温泉などに写り込む日本猿といった、1つのシーンとしてとらえた撮影が中心でした。しかし撮影を重ね、日本猿たちと接する時間が増えるうちに、我々人間との違いや、猿社会、血縁、個々の顔つきや性格といった、日本猿の内部に秘められた魅力へと関心が移っていきました。それにより撮影時の視点も変化し、猿社会の構造が表出した瞬間や、手足などの身体パーツに着目したもの、それぞれの性格が表れたポートレートなどを撮影する機会が増えました。

本作は全てモノクロで統一されています。「日本猿そのものに注目していただきたいので、視覚的な情報を絞る意図もあります。また陰影や質感にもこだわりました」と、清野さん。

――性格は顔に出ると言われますが、日本猿の顔つきもこんなにも個体差があるのですね!

トグラ93♀(左)とトグラ95♂(右)のポートレート。トグラ95♂は、かつての群れのリーダー。少々気性が荒く、撮影時にカメラのレンズを叩かれたこともあったのだそう。トグラ93♀はその姉にあたり、トラミちゃんの愛称で常連の撮影者たちから親しまれていたとのことです。

そうですね、何度も通ううちにそれぞれを識別できるようになりました。特にトグラ93♀は、どこか人間を彷彿させる大きな瞳が印象的です。

――群れのリーダーを務めていたというトグラ95♂よりも、険しい表情をしているように感じられますね(笑)

トグラ93♀の魅力の一つは、表情がよく変わるところです。ポートレートでは眼光の鋭さが際立っていますが、例えば、こちらの温泉の写真の右の日本猿もトグラ93♀です。惜しくも本年の1月に亡くなってしまったのですが、マイペースな性格も魅力的で、常連の撮影者の中にもトグラ93♀のファンが多くいました。僕自身、この子に会うために通っていた部分もあったと思います。

――被写体との距離感も印象的に感じました。日本猿のことをもっと知りたいという、真っすぐな好奇心が伝わってくるようです!

より細部まで見たいし、写したいという思いがあったので、寄って撮影することも多々ありました。最初の頃は、出産したばかりの親猿にうっかり近づいたことで威嚇されたりといった失敗もありましたが、長い時間を共有することで僕の存在も徐々に認識されるようになり、そばで撮影することを許容してくれているように感じることも増えました。

そして、相手に敬意をはらい、対等な目線で撮影を行うということが僕のモットーなので、彼らの目線に合わせるようにしゃがんだり、這いつくばって撮影を行っていました。また、動物相手の撮影では、いつどこで何が起こるか予想しづらい面もあります。なのである程度は予測しつつ、不意に訪れたシャッターチャンスも逃さないよう、様々なシチュエーションに対応できるような装備にこだわっています。近年、SDGs(※1)への関心が高まっていますが、僕自身も質の良いものを長く使用することで、無駄な廃棄を抑えたいという思いもあります。

衣類や靴は機能的な素材にこだわっているとのこと。また、カメラマンベストにレンズケースなどの装備を脱着しやすいよう改良を重ねているそうです。「撮影の特性上、装備の傷みが激しいので、都度自分で修繕も行っています」と、清野さん。

――SDGsへの意識は、本作の撮影の中で強まった部分もあるのでしょうか?

本作の撮影を行う中で、日本猿の生活環境を維持するためにはどうすれば良いのだろうかということは多少なりとも考えていました。また、これは人間にも言えることですが、本当の幸せとはなんだろうという疑問も頭をもたげていました。現代社会は便利なもので溢れていますが、それらが必ずしも僕たちを幸せにしてくれるわけではありません。一方、日本猿たちの生き方は僕たちからしたら不便だと思います。ですが、その中で得られる幸せは、生きることの本質に繋がっているようにも感じられるのです。答えはなかなか出ません(笑)

東京・新宿の「ニコンプラザ」は、「ニコンプラザ東京」としてリニューアルオープンしました!場所は以前までと変わらず、新宿エルタワーの28階。写真文化の普及・向上を目的とする公募制の展示を行う会場・ニコンサロンと、ニコンが企画し発信する展示を行う会場・THE GALLERY、これら2つの展示スペースが併設されています。(撮影:清野 健人さん)

ニコンサロンは10月23日(金)より、「ニコンプラザ銀座」から「ニコンプラザ東京」へ移転しました。本展はニコンサロン移転後、第1回目の記念すべき展示です。「ニコンサロンでの個展開催を第一目標に作品制作に取り組んできたので、念願叶って記念すべきタイミングでの個展開催を果たし感無量です!」と、熱く語られる清野さんの作品をぜひ会場でお楽しみください!

※ニコンプラザ東京では、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、マスクの着用と備え付けの消毒液による入館前の手指の消毒、検温カメラによる体温測定が実施されております。また、混雑緩和のため入館制限を実施させていただく場合もございますので、余裕をもってお出かけください。

※1「SDGs」:「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称。2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す17のゴール・169のターゲットから構成された国際目標。(外務省HPより引用

ステートメント

【清野 健人 写真展「地獄谷の日本猿」】
会場:ニコンサロン
会期:2020年10月23日(金) 〜 2020年11月3日(火) 日曜休館
10:30〜18:30(最終日は15:00まで)
https://www.nikon-image.com/activity/exhibition/thegallery/events/201706/20201023_shinjuku1.html

清野さん Facebook https://www.facebook.com/kento.kiyono
Instagram https://www.instagram.com/kento_photographer/