戸嶋 日菜乃 写真展「2年の瞬き」

レポート / 2020年11月4日

~少女から大人の女性への移ろいを写し止めた2年間の記録~

会場にて、戸嶋さん。11月6日(金)以外はほぼ毎日在廊予定とのことですので、ぜひ会場へ足をお運びください!

戸嶋 日菜乃さん写真展「2年の瞬き」が、11月8日(日)まで表参道駅にある写真専門ギャラリーNADARで開催されています。日本大学芸術学部 写真学科への進学とともに写真をはじめ、「青春」や「制服」をテーマとした作品制作に注力されている、写真家の戸嶋さん。

戸嶋さんは、今年3月に開催されたNADAR主宰の公募展「めざせ個展 2020」において、お客様投票の得票数1位でグランプリを受賞されました。本展は、グランプリ受賞特典である2週間の個展開催権を獲得したことにより開催された写真展です。「めざせ個展 2020」ナダール賞を受賞されたMisuzu Shibuyaさん写真展「MIRROR」に続き、今回もお邪魔しお話を伺いました!

「もう戻ることが叶わない、女子高生として過ごした3年間。花南ちゃんを目の前にしたとき、彼女の今を写し止めたいという思いに駆られたんです」

会場には、抜けるような青空を背景にセーラー服姿で全力疾走する光景、カメラの存在を忘れさせる屈託のない笑顔、そして、鑑賞者をドキリとさせる大人びた表情など、1人の女子高生・花南さんを2年にわたり、多面的に撮影した作品の数々が展示されています。

「花南ちゃんは妹の同級生。妹からの紹介で知り合った2018年当時、彼女は高校生で、わたしは大学生でした。好きなアイドルについて熱く語ったり、他校より夏休みが短いことへの不満を身振り手振りを交えて必死にアピールするその姿からは、10代後半くらいの少女だけが放つエネルギーのようなものが感じられました。また、たった数年の差ではありますが、花南ちゃんとわたしには決定的な隔たりがありました。わたしが戻りたくても戻れないところにいる花南ちゃんに対し、ある種の憧れを抱くとともに、その姿を写し止めたいという思いに駆られたんです」と、戸嶋さんは当時を振り返ります。

そして本作の制作において、花南さんの存在が必要不可欠だったと戸嶋さんは話します。

「『花南ちゃんを撮りたい!』という思いから、本作の撮影は始まりました。花南ちゃんの第一印象は『きゃぴきゃぴしたイマドキの女の子』。初対面の時から、妹と話すのと変わらないテンションで話しかけてくれたので、わたしまで女子高生に戻ったかのようなドキドキ感がありました(笑) でも、カメラを向けるとすんと澄ました表情も見せてくれるんです。そんな彼女のギャップに、すっかり魅了されてしまいました!また、撮影されることを楽しむ姿も印象的。プロのモデルのように撮られることに慣れ過ぎていると本作のイメージとは異なりますが、花南ちゃんの場合、所々に恥ずかしさも垣間見えるのが絶妙でした」

コロナ感染症の影響により、残念ながら本展に参加できなかった花南さん。「彼女の雰囲気を少しでも感じてもらえるように、リモート対談の様子を文章で展示しました」と、戸嶋さん。

「 わたしも女子高生を経験したからこそ、彼女たちが何に関心があるのか分かるんです。『足が長く見える靴下の長さ』とか『可愛く見える前髪のスタイリング』とかね(笑)」

今春から社会人の仲間入りを果たしたばかりの戸嶋さんと、被写体である花南さんとの年齢差はわずか4歳。お互いの年齢が近かったからこそ、写せた表情もあったと戸嶋さんは語ります。

「花南ちゃんとアシスタントを務めてくれた妹と3人で雑談しながら撮影することが多かったのですが、お互いの年齢が近いからこそ通じ合えることも多くありました。例えば、花南ちゃんもわたしもアイドル好きという共通点があるので、『最近人気のあの子可愛いよね』といった会話の流れから、自然と素の表情を撮影できました。同性で年齢も近いからこそ、引き出せた表情もあったと思うんです」

会場には、花南さんが着ていたものと同サイズ・デザインの制服が展示されています。「花南ちゃんは結構身長が高くて164センチほど。撮影のときは、少し背伸びをして撮っていました(笑)」と、戸嶋さん。

「当時の心の機微による『揺れ』や、些細なことに一喜一憂し、1日の密度が濃かったあの頃の感覚を感じてもらえたらと思います」

本展を眺めていると、作品ごとに花南さんの顔つきや雰囲気に変化が見受けられます。キャプションには撮影場所と時期が記載されており、それらをよくよく見てみると、撮影時期はバラバラに展示されていることに気が付きます。そこには、展示構成上の意図があると戸嶋さんは話します。

「大人になったかと思えば、少女に戻ったり。高校生の3年間は、身体面・精神面ともに変化が著しい時期なので、その移ろいも展示を通して表現しました。また、わたし自身も当時感じていた心の機微による「揺れ」も、展示を通して見せたいという意図があります。宿題の多さに気が滅入ったり、友達とクラスメイトの話をしているだけで楽しくて仕方なかったり。些細なことに一喜一憂し、1日の密度が濃かったあの頃の感覚を感じてもらえたらと思います」

大学4年生の卒業制作の時期は、撮影のために夜行バスを駆使して頻繁に帰省していたとのこと。「就活そっちのけで授業の合間を縫って帰省していました(笑) 体力的にも、今では絶対できないです」と、戸嶋さん。

季節や時間の移ろいとともに、少女と大人の女性との狭間で揺れ動く花南さんをとらえた本作。彼女の瑞々しい表情や佇まいには、誰もが一度は通り過ぎた眩い時間が凝縮されています。ぜひ会場で本作を鑑賞する中で、当時の懐かしい自分と邂逅されてみてはいかがでしょうか。

ステートメント

【戸嶋日菜乃写真展「2年の瞬き」】
会場:NADAR
会期:2020年10月28日(水) 〜 2020年11月8日(日) 月曜・火曜休廊
12:00〜19:00(最終日は16:00まで)
https://g-nadar.net/gallery/201028