佐々木 俊哉 写真展「stay alive」

レポート / 2020年11月16日

~異国の地で見出された懐かしい情景。そして、鑑賞者の日常にそっと寄り添う写真展~

会場にて、佐々木さん。

佐々木 俊哉さん 写真展「stay alive」が、11月16日(月)まで明治神宮前〈原宿〉駅から徒歩5分ほどのところにあるGallery CLASSで開催されています。新鋭写真家の佐々木さんは、杉野服飾大学在学時より海外を放浪しながら写真を撮り始め、文化出版局写真部を経て独立。現在はwebやカタログなどの撮影を行う傍ら、「旅と家族」をテーマとした作品制作にも精力的に取り組まれています。

本展では、ルーマニアの小さな村・Maramures(マラムレシュ)と中国東北部の都市・哈爾濱(ハルビン)という、2つの旅先で撮影した作品が展示されています。それらの旅の中で見出された、佐々木さんが追い求めていた情景とは。そして、何気ない日常を写真を介して写し止めるということの意義についてお話を伺いました。

本作は「olympus pen‑ft」で撮影されました。「相手の自然な表情を写し止めようと思ったとき、カメラは小さければ小さいだけ良いと思ったんです。またハーフカメラなので、通常のフィルムカメラよりも多くの枚数を撮影できる点や、旅になじむサイズ感も最適でした」と、佐々木さん。

何かを探すために始めた旅が、
大切なことを教えてくれる旅になった

――19歳の頃に写真をはじめられ、大学在学時からカメラを片手に海外を放浪されていたと伺いました。旅と写真とが結びついたきっかけを教えてください。

日本では目にすることのできない海外ならではの風景から刺激を受けるために、海外を放浪し始めました。なので当初は、南米の星空やウユニ塩湖の夜景など象徴的な光景を中心に撮影を重ねていましたが、20歳の頃に訪れたルーマニアの小さな村・マラムレシュとの出会いでその撮影スタイルに変化が生じました。その村には目新しい何かがあるわけではありませんでしたが、溢れるほどの優しさに満ちていたんです。

例えば馬車を見に行った際、バスの遅延で目的地に到着したのが夜中になってしまったことがありました。野宿かなと途方に暮れながら歩いていたら、偶然子どもと遭遇したんですね。そうしたら家族を呼んで来てくれて、わざわざ車で宿まで送ってくれたんです。しかも、その宿では村の人たちがパーティーをしていて、「君も一緒に踊りなよ!」と見知らぬ僕を歓迎してくれました。踊りに混ざり、彼らとお酒を酌み交わす中で、自身の感情の高まりや心が通じ合う温かな感覚をひしひしと感じました。その感動は確かな衝撃として僕の心に焼き付き、日本に帰国した後も頭から離れませんでした。旅の写真を見返すうちに「この人たちともう一度会いたい」という思いがより一層強まり、3年後、当時の写真を渡すために再び村を訪れたんです。

会場では『Maramures』と『哈爾濱』2冊の写真集もご覧いただけます。旅の小物も飾られており、こちらの帽子の小物はマラムレシュで暮らす女性の手作りなのだとか。それらからも、旅への想像がふくらみます!

――その旅の軌跡をまとめた写真集が『Maramures』ですね。いずれの作品も普段であれば見過ごしてしまいそうな些細な光景ばかりですが、どこか胸に迫ってくる懐かしさを感じます。

衝撃的な出来事は否応なしに記憶に残りますが、日常の瞬間を大切にしている人は少ないのではないかと思います。しかし幸せの本質は、手からこぼれ落ちてしまうような些細な瞬間の中にこそ潜んでいるのではないかとも思ったんです。「誰しも大きなものを追い求めるが、大切なことは意外と近くに潜んでいるものである」とは恩師の言葉ですが、この旅の中でまさにこの言葉の意図するところを実感しました。そして、そんな小さな幸せを丁寧に掬い上げるように写し止めたいと思うようになったのです。

見知らぬ風景が故郷に見えた。
見知らぬ人が家族に見えた。

――なるほど。確かに足りないものにばかり目を向けてしまいがちですが、実は気付いていないだけで幸せはすでに手の内にあったりするものですよね。

そうですね。近すぎると気付けないことはたくさんあると思います。僕自身、地元・福島にいるときよりも、遠い異国の地にいるときの方が家族の存在を近くに感じる瞬間がありました。例えばこちらの写真の撮影時がまさにそうです。

哈爾濱で見かけた光景で、凍った湖の上を歩いていたおじいちゃんとお孫さんに声をかけて撮影しました。この光景をファインダー越しに覗いたとき、僕が旅をする理由はここに詰まっているなと感じられ、胸がきゅっとなったことを今でも覚えています。まだ撮れた画を確認すらしていないのに、感極まって歌ってしまったほどです(笑)

――被写体との距離も印象的ですね。お2人の表情をとらえることはできませんが、その場に漂う優しい空気感がひしひしと伝わってきます。

被写体との間に距離があるからこそ、僕には見知らぬ2人の姿が家族と重なって見えました。これは近くで見ていたら感じられなかったことですし、遠すぎたら彼らの姿をとらえることはできません。距離があるからこそ、見知らぬ風景が故郷に見えますし、見知らぬ人が家族にも見えるのかもしれませんね。最初は刺激的な光景を求めて旅に出たはずなのに、僕が追い求めていた光景は身近にあったものだったのだと旅を通して気付きました。

「写真のすべてが展示で伝わらなくてもいいと思うんです。
人と写真が触れ合う瞬間はもっと自由であって欲しい」

――距離感という点では、本展における作品と鑑賞者との距離にもこだわりを感じました。額装した作品を展示するだけではなく、映像、写真集、旅先の小物など、様々な角度から作品と接点を持てるような空間に仕上げていらっしゃいますね。

階段を下った地下に本会場はあります。「冬に巣穴に潜り込んだら温かな空間が広がっているようなイメージを形にしました。本作をきっかけとして、ご自身の心の奥底の感情と触れ合う時間を持っていただけたらと思います」と、佐々木さん。

作品に関心を持つきっかけは人それぞれだからこそ、より多くの人に作品とのひと時を楽しんでいただくためには展示空間の工夫も重要だと思いました。それに本作は肩ひじ張るような内容ではないので、リラックスして楽しんで欲しいという思いもありました。僕自身、会場で額装された作品を観ているときよりも、ソファでくつろぎながら写真集を眺めているときの方が作品世界により入り込めることがあります。なので本展では、お客様がくつろいで鑑賞できるような空間づくりにこだわりました。お客様一人ひとりに飲み物をお出ししつつ、作品や旅のこぼれ話もお伝えしています。従来の展示スタイルとは大きく異なりますが、「とことんまでやってみましょう!」と背中を押してくださった本展のギャラリストの支えもあって実現できた空間です。写真展が終わったら作品も終わるということではなく、観て下さった方々の今後に繋がれる作品となればと思います。

柔らかな光に満ちている本展の作品の数々は、その光ゆえに被写体を優しくぼかし、鑑賞者の記憶の中の情景ともすっと重なり合います。そこから何が見出されるのか、会場で作品とのひと時を楽しまれつつ感じてみてはいかがでしょうか。

本展では、帰り際に鑑賞者が気に入ったお写真のプレゼントも! 鑑賞者一人ひとりの日常と寄り添う作品との出会いが本展にはありました。

【新型コロナ感染症の拡大予防に関するお願い】
・全てのご来場者へ、マスクの着用をお願い致します。
・入り口にて、検温、アルコール除菌のご協力をお願い致します。
・室内の人数が多いとギャラリー側で判断した場合は、人数制限をさせて頂きます。

【佐々木 俊哉 写真展「stay alive」】
会場:Gallery CLASS
会期:2020年11月10日(火) 〜 2020年11月16日(月)
12:00~20:00
https://www.instagram.com/p/CHE3w0GDIfw/

佐々木さん WEBサイト
https://www.shunya-sasaki.com/
Instagram
https://www.instagram.com/shunya.sasaki/