千代田 路子 写真展「私は彼女と長い夢をみる」

レポート / 2020年11月27日

~祈りの先に見出された想いを紡ぐモノクローム~

会場にて、千代田さん。

千代田 路子さん 写真展「私は彼女と長い夢をみる」が、六本木駅から徒歩5分ほどのところにあるSTRIPED HOUSE GALLERYで開催されました。光学メーカー・タムロンの広報宣伝部門への転職を機に、本格的に写真による作品制作を始められた千代田さん。個人的な体験からテーマを見出し、物語性を重視する作品作りを目指されています。

本作は、染花アーティストの秦 碧さん(※1)の創作の軸にある「祈り」から着想を得て制作されました。本展を通して千代田さんがみた夢とは。そこには、写真を介して「祈り」に向き合われた日々の軌跡がありました。

「祈りとは対話。そして私の作品は祈りそのもの」

――本作の制作には、クリスチャンで、染花アーティストの秦 碧さんの存在が大きく関わっていると伺いました。その経緯をお聞かせください。

碧さんとはかねてより友人であり、お互い創作活動に携わっているもの同士、どこか通じ合える部分が多い存在でした。2015年の暮れに作品集『慈しみの染花』の撮影を依頼されたことをきっかけに、はじめて仕事を共にしました。彼女が創る花がとても好きでしたし、仕事への姿勢に尊敬の念を抱いていたので撮影を頼まれたときは本当に嬉しかったです。しかし同時に、癌との闘病にあることも打ち明けられ言葉を失いました。

しかし、彼女は「すべては神様のおはからいに委ねる」と話し、その悠然とした姿がとても印象的に私の目に映りました。そして、そんな彼女を支えているのは「祈り」があるからなのではと思いました。そこで碧さんにあなたにとって「祈りとは何か」と尋ねると、「祈りとは対話。そして私の作品は祈りそのもの」という返答が返ってきました。私はその言葉に不思議な感動を覚えるとともに、その「祈り」というものの一端に触れたくなったのですね。

会場入り口には、秦さんの染花をとらえた作品が並びます。「これらは碧さんの作品集『慈しみの染花』に収録したカラー作品をモノクロで表現したものです」と、千代田さん。

秦さんのポートレート作品も美しく目を引きます。「碧さんへの尊敬と感謝を込めた1枚。本作品は彼女との本作りが契機となり、彼女の協力のもと、作品を作り上げましたので、入り口にこの写真を展示しました」と、千代田さん。

――「祈り」への手がかりを求め、キリスト教について本で学ばれたり、秦さんから紹介されたイエズス会長束修道院「黙想の家」(※2)で礼拝や黙想の日々を過ごされたそうですね。その経験は本作においてどのような影響をもたらしたのでしょうか?

修道院での祈りの体験は私にとって非日常であり、そこには多くの気付きがありました。そして、その中で見出された自身の心の機微をイメージとして作品の画の中に作り込むことを意識するようになりました。以前までは被写体を自然に切り取り、そこから想像を掻き立てる部分を見出すという制作スタイルでしたが、本作においては自身が抱いたイメージをより定着することに重きを置いたため、合成などの画像加工も積極的に取り入れました。

左の作品は、修道院の窓から光が降り注ぐ写真。「黙想の後に窓から入る光を眺めていると、輝く光が私に降り注いでいるように感じ、このような画像を作りました」と、千代田さん。

修道院で過ごす日々では、光を感じる機会も多くありました。例えば黙想を終えたときに感じた、窓から差し込む光の輝き、暖かさなど。様々な光の在り方を肌で感じたことで、改めて光と影による写真表現について考える機会を得ました。また、光の表現とともに、修道院特有の柔らかな暗がりの表現にはこだわりました。

プリントの美しさも見どころです!モノクロ作品は楮二層紙を使用されたとのこと。「修道院の柔らかな暗がりを表現するために、暗部のディテールにこだわり本紙を選びました」と、千代田さん。

継承される祈り

――本作の制作を通して、秦さんと共に生きるということへの答えを見つけることは出来たのでしょうか?

彼女の祈りの一端を知ろうと、体験を重ね、作り出されたのが本作です。そのような体験の中で、私はこの先もずっと彼女と創作の喜びを分かち合い続ける夢をみること。それが碧さんと共に生きるということにも繋がるのではないかと思いました。

本展のDMに採用された作品。秦さんに許可を得て、染花の中央に黒い丸を入れることで「目」のようなイメージを表現されたとのこと。「大切な人の闘病を見続け、今後も共に創作していくという気持ちを込めた写真です」と、千代田さん。

――現在は新たなプロジェクトとして、目黒にある五百羅漢寺の仏像修復に取り組まれている仏像修復家・長井武志氏の撮影にも着手されていると伺いました。本作と繋がる部分もあるのでしょうか?

仏像修復家が担うのは、人々が祈りを捧げた仏像を後世へと継承するという役割。被写体は異なれども、祈りに込められた人々の想いと写真を介して向き合うということは本作に通じる部分であると思います。修復はとても根気のいる地道な作業ですし莫大な費用もかかります。にも関わらず、人々はなぜ仏像を永らえさせようとするのか。写真家として、今後も向き合っていきたいテーマです。

肉体はいつかは朽ち果てることは世の理ですが、その意志は作品の中で生き続けることが可能であるということを実感する瞬間が本展にはありました。それは人間が創作することをやめられない動機にも繋がる部分かもしれません。千代田さんと秦さんが紡ぎ出す夢に魅了されたひと時でした。

※1「秦 碧 さん」:広島生まれ。1973年頃より染花の制作をはじめる。1983年、原宿「ギャラリー悦」にて染花展を開催。その後「アトリエ・サンタベルデ」染花教室を主宰。戦後70周年という節目の年を迎えるにあたり、改めて被爆地広島の一市民であることに思いを深くし、いのちの尊さ、平和への切なる願いを込めた作品集『慈しみの染花』を2018年に出版した。(写真集『私は彼女と長い夢をみる』より引用)

※2「イエズス会長束修道院「黙想の家」」:カトリック修道会の一つ、イエズス会の入会志願者を初期養成する修練院として1938年に建設された。現在、一般信者の研修や宿泊も可能となり、祈りや黙想、ヨガなどの体験を通して、信仰に基づく深い人間的、霊的成長を望む人々のニーズに応える活動を行っている。(写真集『私は彼女と長い夢をみる』より引用)

STRIPED HOUSE GALLERYは、芋洗い坂の通り沿いにあります。ポップな建物が目を引きます!

会場では、本展の写真集『私は彼女と長い夢をみる』に加え、千代田さんのアーティストブックや、染花アーティスト・秦碧さん作品集『慈しみの染花』も展示されていました。千代田さんの印刷タイプの写真集は完売。増刷未定。秦 碧さん『慈しみの染花』(税込2,600円)若干残あり。千代田さん手作りのアーティストブック(税込9,000円)ご希望の方はウェブサイトからお問い合わせください。

ステートメント

【千代田 路子 写真展「私は彼女と長い夢を見る」】
会場:STRIPED HOUSE GALLERY
会期:2020年11月16日(月) 〜 2020年11月20日(金)
11:00~19:00
https://striped-house.com/now4.html

千代田さん WEBサイト
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