若山 美音子 写真展「遠い呼吸 ー曖昧な存在に問いかけるー」

レポート / 2021年1月12日

~被写体へのまなざしから見出される、「瞬間」を写し止める意識~

在廊状況は、若山さんのFacebookをご確認ください。

若山 美音子さん 写真展「遠い呼吸 ー曖昧な存在に問いかけるー」が、1月20日(水)までキヤノンギャラリー銀座で開催されています。2000年以降から本格的に写真を始められた、若山さん。写真家の瀬戸 正人氏に師事し、新宿御苑前駅にあるフォトギャラリー「Place M」で開講されている写真ワークショップ「夜の写真学校」にて、写真を学ばれました。

会場には、日常の光景を丁寧に切り取ったスナップ写真が並んでいます。それらの作品を眺めていると、私たちの日常はこんなにも美しい光景で満ち溢れていたのかという、新鮮な驚きを覚えます。こういった光景に気付けるかどうかには、写真家としての「見る」ということへの意識が大きく関わっていると、若山さんは言います。そして、本作制作の根底にある想いについても、お話を伺いました。

本展では、作品の「色」に着目し展示構成を組まれたとのこと。「こちらの壁面には『緑』が印象的な作品を集めました。また、作品の連なりによってストーリーを表現することよりも、作品1点1点が持つ力を活かすような配列にこだわりました」と、若山さん。

――本作「遠い呼吸」シリーズには、写真をはじめたばかりの頃に撮影された20年ほど前の写真も含まれているそうですね。

そうなんです。会場では展示していませんが、写真集には初期の作品も含まれています。とはいえ、シャッターを切った瞬間、目の前の光景はすべて等しく「過去」になります。そういった「時間」的な要素も本展で表現したいと思い、展示タイトルには「遠い」という言葉を入れました。

また、タイトルについて言うと「呼吸」は「命」を暗喩しています。なので、本展の作品は全て「命」が感じられるもので構成されています。人や鳥など、生き物をとらえた作品はもちろんのこと、本来は「命」を持たない無機物をとらえた作品に関しても、同様の観点でセレクトしました。

――たしかに若山さんの作品からは、彫刻や山などの無機物をとらえたものも、まるで命が吹き込まれているかのような不思議な感覚を覚えます。

無機物にも「命」を感じるのは、それらが「変化」するものだからだと思います。この世に存在する、ありとあらゆるものは常に変化にさらされています。本作で写し止めた景色も、100年後、変わらずに在り続けることは出来ません。そんなことを考えていると、世の中の「無常」を意識せずにはいられませんよね。また、これは私たち自身においても同様です。年齢を重ねる中で、命の「儚さ」を実感しています。

――なるほど。世の中が「無常」であることを意識しているからこそ、過ぎ去る「瞬間」を写し止めたいという欲求が生じているのですね。

タコ公園は、都市開発の関係で地元の人たちに惜しまれつつ2016年に閉園しました。

こちらの作品は、まさにそんな意識のもとで撮影しました。地元の調布駅前にあった「タコ公園」を撮影した1枚ですが、もう閉園してしまったので、現在はこの「タコの滑り台」を目にすることは出来ません。日常の一部として当たり前に存在していた景色が失われたことで、日々の一瞬一瞬をきちんと写し止めておかないと消えてしまうのだということを身をもって実感しました。こういった経験の積み重ねが、いつか失われてしまうかもしれないものに対して抱く、ある種の「執着」を生み出しているのかもしれませんね。

――若山さんが写し止めているような「瞬間」の数々は、意識的に見ようとしない限り、なかなか気付けないものでもあると思います。

そこには、「見る」ということへの意識が大きく関わっています。カメラを手にしていると、自然と周囲の景色を「撮影対象」としてとらえるので、些細な変化も見落とさないよう意識するようになります。すると、写真をはじめる前は、いかに周囲の景色をきちんと見ていなかったのかということに気付かされました。だからこそ、残したい「瞬間」を逃さないためにも常にカメラを持ち歩き、いつでもシャッターが切れる状態であることが大切です。

また、シャッターを切る「タイミング」には、特にこだわっています。風景写真の場合は光や構図を考えた上で撮影するかと思いますが、わたしの写真の場合は目の前の光景の「雰囲気」を写し止めることを最も重視しているのです。

例えば、こちらの写真は夕方の薄暗い中で撮影したのでブレています。ブレた写真は失敗作だと考えてしまいがちですが、わたしはこの1枚が大好き。もしも、はっきりと写し出されていたら、作品から当時の雰囲気まで感じ取ることは出来なかったと思います。

こちらの2作品は、どちらも「子ども」がポイントとなっています。左の作品は、鳶を撮影しようと狙っていたところ、偶然子どもが道の奥から走り出してきたので瞬間的に撮影しました。右の作品は、子どもたちがかくれんぼを楽しんでいた光景を撮影した1枚。隠れた子どもが、こちらに視線を向けた一瞬をとらえました。子どもを撮影する際には次の行動が予測しずらいからこそ、より一層、「瞬間」への意識をもって撮影に臨むことが求められるのです。

本展から見出される、被写体へ向けた若山さんの優しいまなざしには、胸に迫るものがあります。それはコロナ禍により、人と人との「距離」が生じている昨今だからこそ、より感じられる部分かもしれません。

「人との距離を要求されるほど、人の温もりが恋しくなる。それは、人間は誰しも一人では生きていけないからだと思います。だからこそ、自身を取り巻く命あるものを大切にしていきたいものです」と、若山さんは言います。本展では、張りつめた心をも解きほぐしてくれるようなひとときが得られました。

※新型コロナウイルス感染拡大防止への対応として、営業時間及び、本展の開催時間が変更になる可能性がございます。ご来場される際には、キヤノンギャラリー銀座のホームページをご確認下さい。

会場にて、写真集『遠い呼吸 A distant breath 』をお買い求めいただけます。こちらはWEBでも購入可能です。詳細はこちらをご覧ください。

ステートメント

【若山 美音子 写真展 「遠い呼吸 ー曖昧な存在に問いかけるー」 】
会場:キヤノンギャラリー銀座
会期:2021年1月4日(月) 〜 2021年1月20日(水)
10:30〜18:30(最終日は15:00まで)
会場:キヤノンギャラリー大阪
会期:2021年2月12日(金) 〜 2021年2月17日(水)
10:00〜18:00(最終日は15:00まで)
https://canon.jp/personal/experience/gallery/archive/wakayama-breath

若山さん Facebook
https://www.facebook.com/mineko.wakayama