~ブータンが「幸福の国」と呼ばれる所以が見出される写真展~
アイデムフォトギャラリー「シリウス」では、毎年年初に年男・年女の写真家を招いた年頭企画展が開催されています。そして今回は、丑年である2021年に年男を迎える写真家・横田裕市さんの写真展「ブータン 穏やかなる龍の国」が、1月20日(水)まで開催されています。
国内外の風景写真を中心に撮影されている横田さん。写真家として11年のキャリアを持ち、雄大な自然のスケールを伝える大胆かつ繊細な絵を得意とされています。その作品はAppleの広告採用や、国際フォトコンテスト ipa2016 プロフェッショナル Nature部門にて部門優勝を果たされたりと、国内外で高く評価されています。
2015年12月には、フィンランド政府観光局・フィンランド航空主催の観光誘致プロジェクト「100DAYS OF POLAR NIGHT MAGIC」の日本代表として、冬のフィンランドの魅力を発信しました。その活動は大きな注目を集め、翌年2016年7月には、日本とブータンの国交30周年を記念した観光誘致プロジェクトの日本代表にも選ばれました。本展に並ぶ全48点の作品は、そのプロジェクトで撮影された写真で構成されています。
旅の中で写真を通して見出されたブータンの魅力や、写真家としての今後についてまで、横田さんに話を伺いました。
――2019年2月にソニーイメージングギャラリー 銀座で開催された作品展「フィンランド 冬の光」以来、約2年ぶりの個展開催ですね。年頭企画展の展示作品として、ブータンの作品群を選ばれたのはなぜでしょうか?
2021年が良い年になるようにとの願いを込め、「幸福の国」として知られるブータンの作品群を選びました。とはいえ、ブータンという国の実態についてはピンとこない人が大半なのではないかとも思い、ブータンがなぜ「幸福の国」と呼ばれているのかということを軸に、その魅力を本展で掘り下げてみようと決めました。
――たしかに本展の作品を眺めていると、ブータンの魅力を多角的にとらえることができますね。
そうですね、ブータンには様々な魅力があるんです。まず何と言っても、手つかずの雄大な自然に圧倒されました。国土面積は日本の10分の1程度なので、そこまで大きな国ではありませんが、その国土の約70%を森林が占めているんです。また、ヒマラヤ山脈の東端に位置するため標高が高く空が近いので、雲の造形も美しい。ブータンは別名「雷龍の国」とも呼ばれていますが、旅の中で目にした数々の風景からは、そんな神秘性も感じられました。
また、国全体に漂う穏やかな空気も魅力的。ブータンには古くからチベット仏教の教えが根付いているので、その信仰心の厚さが人々の豊かな精神性にも影響を与えているのだと思います。
――人々の精神性の豊かさは、どのような場面で感じられましたか?
至る所で祈りを捧げる人々の姿を見かけた中で強く感じました。ブータンの日常には祈りがあるのですね。例えば、第3代国王の記念仏塔である「メモリアル・チョルテン」の周りには、毎日人が絶えません。現地の人々にとっては、毎朝ここでお祈りをすることが習慣であるとともに、心の拠り所なんです。
僕は風景写真家なので、普段は人物をとらえた作品は滅多に展示しません。ですが、ブータンの魅力は人々の日常の中にもあるのではないかと感じたので、本展では人々の営みが垣間見えるような作品も展示しました。
また点数は多くありませんが、子どもを撮影した作品も展示しています。本展を鑑賞されたお客様からは、『子どもの表情に胸が打たれる』との嬉しい感想もありました。現地の人々の表情の中にこそ、ブータンという国の本質が見出されるのかもしれませんね。
――本作を撮影された時、どのような意識をもって臨まれていましたか?
ブータンを全身で感じることに意識を集中させていました。その甲斐もあってか、この旅では幸運に遭遇する機会が多くありました。例えば、今回のメインビジュアルである、虹とチベット仏教を象徴する2種の旗をとらえた作品も多くの幸運が重なった1枚。この旅に同行してくれた運転手さんがとても気の利く方で、虹を撮るのに最適な場所へと連れて行ってくれたおかげで撮影できた作品なんです。また幸運な瞬間と遭遇したとき、単なる記録写真ではなく作品として写し止められるかどうかには、写真家としての瞬発力も大きく影響していると思います。
――では最後に、写真家としての今後の活動への展望を教えてください。
自分が感動した風景を写真にして切り取り持ち帰ることで、その写真を見てくれた人に、僕の感動を、まるでその場で一緒に居たかのように共有して体験してほしい。僕が写真家になったのは、そういう思いがあったからです。その思いは今も変わっていません。とはいえ、独立当初は必ずしも自分のやりたいことが仕事に直結していたわけではありませんでした。ですが、SNSの発展とともに写真がよりオープンなものになったことで、少しずつ自分が撮りたい写真を仕事に繋げることが可能になっていきました。ブータンの旅が仕事として成立していることもまさにそうですね。時代とともに写真家を取り巻く環境も日々変化しているからこそ、今後はそれに適応していく力が求められると思います。
――コロナ禍の現状では、その「適応力」がより求められそうですね。
そうですね。僕もコロナ禍でなければ、次は夏のフィンランドの撮影を予定していました。現状では、またいつフィンランドへ渡れるかは分かりません。ですが、こんな状況下だからこその発見もありました。
昨年の自粛期間中、コロナ禍で仕事の依頼がほとんどなくなってしまい時間にゆとりが出来たので、「ワンダと巨像」というゲームをやっていました。その中でカッコいいスクリーンショットを撮ってSNSで発信したところ、「プロ写真家が撮ったスクリーンショットが美しい」という切り口で話題になり、イベントに呼ばれるまでになったんです(笑)現実世界以外でも活躍できるチャンスはあるのだということは発見でしたし、これもひとつの適応力ですよね。今後もどんな社会的要因に阻まれてもめげずに、日本を代表する写真家の一人であろうという向上心を持ち続けていきたいと思います。
※新型コロナウイルス感染拡大防止への対応として、営業時間及び、本展の開催時間が変更になる可能性がございます。ご来場される際には、アイデムフォトギャラリー シリウスのホームページをご確認下さい。
【アイデムフォトギャラリー「シリウス」 年頭企画展 横田 裕市 写真展 「ブータン 穏やかなる龍の国」】
会場:アイデムフォトギャラリー シリウス
会期:2021年1月5日(火) 〜 2021年1月20日(水) (日曜および一部祝日休館)
10:00〜18:00(最終日は15:00まで)
https://www.photo-sirius.net/
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