新潟県十日町市松之山は、四季を通じて数多くの観光客が訪れる、日本から失われつつある懐かしい田舎の原風景が多く残る土地。その地に移住しホーリーバジル(和名:神目箒 かみめぼうき)を栽培する嶋村彰さんを、約1年かけて追い撮影した小野さんにお話を伺ってきました。
ーこの嶋村さんを撮るようになったきっかけなど教えてください。
もともと(十日町市の)別集落を長く取材していて、面白い人がいると聞いていて、いずれ話ができればと思っていました。2019年の春に紹介してもらい、はじめての訪問で2~3時間話を聞き、家族写真や畑の写真などを見せてもらう中、直感で面白そうだなと感じ、1年かけて撮らせくださいとお願いしたのがはじまりです。それからは1ヶ月に1回ぐらいのペースで通って撮っていました。
ーということは2019年から2020年に撮られたものということでしょうか?
2019年から2020年の春までを一区切りとして、農家の一年というただの農作業写真でないものにしようと思いました。冬にはスキー場で働かれていると聞いていましたし、人としての暮らしを一年じっくり見せたかったというのがあります。
ー前からお付き合いがあったかのような、自然体で写っている作品ばかりですね。
相性もあるかなと思います。あくまで作品を撮りに行くというより、友達付き合いの延長のような、農作業を手伝って、一緒に温泉に入ったりとしているうちに、人としても仲良くなってきて、まず相手に認めてもらい、自分も農作業を少しでもできるようになって、そこから撮らせてもらうということを心掛けるようにしています。
ー田舎暮らしでスローライフをしてみたいと憧れている方も都会には多いと思いますが、実際に拝見するとそういったものだけではなく地元に根付いてのくらしというものを感じますね。
僕から見ても特別な生活に見えてしまいますが、実際に住んでいる人は単純にそこに住みたいから行ったという感じです。農作業をしたり塩を作ったり、スキー場で働いたりと、生きる方法や生きる場所は一つではないですし、そういった人の人生から生きるヒントや可能性を感じてもらえたらと思っています。今回の写真展もぜひ子どもたちにも見てもらえたらと思っていて、僕も都会っ子で義務教育から上の学校に行って就職してという一つの生き方しか知りませんでしたが、いろいろな選択肢を提示できればいいなと思っています。
こうやっていろいろなところに取材行くうち、自分の居場所が増えたような気がしていて、もし東京で食いっぱぐれても、どこかしらで生きていけるという、つながりの安心感を感じています。
視覚の楽しさも農業には必要と思っていて、行ったときに見せてもらった夏にできるであろう、紫色の畑の写真がすごくきれいで、僕も絶対にそれを見たいと思ったし、 嶋村さんも自分でその風景をつくりたいという思いで、 ホーリーバジルを自宅に植えて栽培をはじめました。これからの農業は視覚的魅力も大切だなと思います。
ー今後も撮り続けていきたいと考えてらっしゃいますか?
とりあえず今回は一年という軸だけで見せたかったので、今後も継続して記録し続けていくことが、この嶋村彰さんの人生に関わった僕の責任でもあるし、展示を通じてもっとたくさんの人に知ってもらいたいと思っています。
何かしら地域に貢献していきたいという最終目標のため、続けて撮っていきたいと思っています。
東日本大震災があって、人と人とのつながりが大切だと言われはじめ、 今はコロナを経て人との接触ができなくなり、自然との付き合い方を考えていくという必要性がでてきています。大きな出来事によって人の価値観も変化し、今後どう生きていくかということを考えさせられます。
東京に住んでいると、いつの間にか季節が変わっていることに気づいたりと感覚が鈍くなっていることを感じることが多いですが、嶋村さんたちの自然に寄り添う、日々の大切さを実感させられます。大学で地域創生について学び、地域の役立つことをしていきたいと、写真をコミュニケーションツールとして作品を発表されている小野さんの作品、ぜひご覧ください!
【小野 悠介 写真展「太陽と月の下」】
会場:ニコンサロン(日曜休館)
会期:2021年3月16日(火) 〜 2021年3月29日(月)
10:30〜18:30(最終日15:00まで)
https://www.nikon-image.com/activity/exhibition/thegallery/events/2021/20210316_ns.html
小野さんのWebサイト
https://www.yusukeonophoto.com/