倉谷 拓朴 写真展「その森のできごと ーさくらー」

レポート / 2019年3月7日

~ブルーグラデーションの淡く美しい桜~

右正面の作品が、初めて桜をテーマにしたフォトグラム作品(2012年)。作品タイトルにもなって
いる空間線量は「0.87μSv/h」と、今回展示されている作品の中でもっとも高い。

写真作家の倉谷拓朴さんが制作のテーマとしているのは、人の「生と死」や「記憶」。中でも、「その森のできごと」シリーズは、カメラを用いずに印画紙の上に直接物を置いて感光させる手法により、3.11以降の福島の草花をその場の太陽光で焼き付けることで、カメラでは写しきれない記憶や存在を表現しています。

多くの写真家がそうしたように、3.11以降カメラを持って被災した地域に入った倉谷さん。しかしファインダーを向けるうちに「カメラではこの場所で起きていることを自分は残しきれない。伝えられない」との考えに至り、その場にあるものを記録のように印画紙に写し取る表現技法に行き着いたと言います。
会場に並ぶのは「その森のできごと」シリーズから、テーマを「桜」に絞り、新作を加えた12点の作品。桜の淡い表現をするために、倉谷さんはあえて曇天を選び、時間をかけて像を焼き付けたそう。ブルーグラデーションが描き出す、淡く透明感のある桜の美しさに、思わずため息が漏れます。

中央の3枚は、今回の展示に合わせて作成された新作です(撮影は2014年)。印画紙の上に直接、桜花を置き、曇天の光で時間をかけて焼き付けることで、淡いブルーのグラデーションが生まれています。

一方で、美しいからこそ、その地で今も起こり続けている悲惨なできごとの記憶や思いといった不可視のものが刻み込まれているように感じます。作品下部に記された「0.18μSv」などの手書き文字は、その場所で倉谷さんが測った空間線量の記録。何か意見するのではなく、ただ記録としてその場所のできごとを残す大切さに気づかされます。

白い空間を浮遊しているように見える花びらは、その場に漂っていた光や空気、時間、その地で暮らしていた人々の残留記憶といった目に見えないものが可視化されているように感じるのが不思議です。会場内の作品は、すべて展示販売されています。

ブルーの美しい桜で一足先に春の訪れを楽しみたい方や、時間や記憶といった不可視のものを感じたい方、日光写真に興味のある方はぜひ会場に足をお運びください。倉谷さんの在廊予定は10日(日)だそうです。

【倉谷 拓朴 写真展「その森のできごと ーさくらー」】
会期:2019年3月1日(金)~3月11日(月)
12:00~19:00(最終日は17:00まで)
会場:Gallery Nayuta
https://www.gallerynayuta.com/