金子 典子 写真展「光あれ」

レポート / 2019年2月5日

~濃密な黒と輝く光のコントラストに魅せられるモノクロームの銀塩プリント~

もともと写真を撮るのが好きだったことから事務職としてプロラボに入社し、後にプリンターを目指すことに。練習を兼ねて撮影をするようになり、次第に自分の作品というものを意識するようになったそうです。

暗室作業の職人プリンターとしてアトリエ シャテーニュで活躍しながら、自身の作品づくりにも取り組む金子典子さん。「黒を大切に」という師匠の教えを受け継いだというモノクロームの銀塩プリント作品は、シンプルな表現ながら、濃密な黒が光の輝きや質感を引き出しています。

金子さんが訪れたのは、三重・伊勢、島根・出雲、和歌山・熊野、京都、埼玉・長瀞、山梨・昇仙峡、福島・いわきなど。「どこに行っても、よそ者の、お邪魔しますの感覚です。伊勢など歴史や文化のある地域で育った人へのコンプレックスがあるかも」と金子さん。各地を巡る中で、現地の人たちが温かく迎え、案内や説明をしてくれたことが本当に嬉しかったと話してくれました。

会場に並ぶ23点の作品に写っているのは、伊勢・出雲・熊野など古くから聖地として人々から崇められてきた土地。所縁のないこれらの地を巡るきっかけは、親の死だと金子さんは言います。

撮影に訪れた先では雨が多かったのだそうです

「肉体から離れた魂はどこへ行くのだろう、違う世界で元気にやっているだろうかと考えるようになりました。だからと言って答えが分かるわけではありませんが。見知らぬ土地を訪れて何かを感じたかったのと同時に、私が好きな写真を撮る姿をどこかから見て安心してくれるかなと思っています」

「ステイトメントは書けても、良いタイトルが浮かばなくて…」と金子さん。光あれ、というタイトルは、額装などでお世話になったフォトクラシックの山崎さんにつけてもらったそうです。
濃密な黒が艶めく光を作り出している、金子さんの作品世界にぴったりな印象を受けました。

50ミリレンズの視界には、夜を照らす満月や艶やかに輝く神木の幹をはじめ、幻想的な水紋や滝、靄の立ち込めるしめやかな山、あるいは荒々しい波が押し寄せる海などが切り取られています。
水が好きなので無意識に水を撮影していると金子さん。一方で、水は油断するとあの世へ連れて行かれるような恐怖を感じるのだそう。

「人が苦手なので、人がいない方へカメラを向けています。自分の世界に入っていく感じ」と金子さん。観光地にもなっている場所のため、大勢の人が周りにいたそうですが、そういう雰囲気を感じさせない作品からは、静謐さや畏敬といった心理的な世界を感じます。

これからも自分が浄化されるような地を訪ね、そこで感じたものを大切にフィルムに残していきたいと語ってくれました。ぜひ会場へ足を運び、黒の深い階調を前に沈潜してみてはいかがでしょう。

会場では、オリジナルプリントのほか、オリジナル小冊子(サイン入り・800円)や、ポストカードセット(200円)などが展示販売されています。

【金子典子 写真展「光あれ」】
会期:2019年2月4日(月)〜2月17日(日)
13:00~19:00
会場:蒼穹舎
http://www.sokyusha.com/gallery/20190204_kaneko.html