時を超えて

時を超えて
横内 勝司
2021/11/23 ~ 2021/11/28
時を超えて
今から約90年前、カメラがまだ一般に普及しておらずスナップ写真の概念すらまだない信州松本の農家に8人兄弟の長男として生まれ、農業の傍ら独学で写真を学び、郷里の山岳風景や穏やかな戦前の日常を写真に収めた1人の若者がいた。

横内勝司 (yokouchi katsuji) 2014年に初めてこの写真を見るまで僕はその名を聞いたことがなかったし、写真史の何処にもその名を見つけることは出来なかった。ガラス乾板式のカメラでスナップ風に捉えた作品群は、その撮影技術もさることながら、どれもが詩情に溢れ写真を撮る喜びに満ちている。だが昭和11年8月、横内は33歳の若さで病死。以後この国が辿った激動の歴史の中で忘れ去られ、その作品群は長い時間眠り続けることになる。この時、長男の祐一郎はわずか8歳だった。

彼の死から70年が経過した2005年 の自宅改修時に屋根裏から大量のガラス乾板が発見され、それから更に10年の歳月が流れた2014年5月、僕は87才となっていた横内祐一郎氏と出逢いその父である横内勝司が撮影した奇跡の乾板群の存在を知った。これまでどんな写真からも受けたことのない衝撃だった。それから何度も横内家を訪ねて祐一郎氏の話を伺ううちに僕は横内勝司に魅了されていった。彼の作品群が長い長い沈黙の時を経て、そして今、僕と出逢った事に偶然ではない何か大きな意志のようなものさえ感じている。横内勝司を伝えることは今を生きる僕に与えられた役割なのかもしれない。その思いに突き動かされるように膨大なガラス乾板のデータ化と修復作業が始まり翌年、地元の小さなギャラリーで横内勝司没後80年を経て初の個展が開催された。

その作品に触れた人々の感動は波動となって伝わり、松本から東京、大阪、名古屋、福岡、滋賀と、写真の枠を超えた拡がりをみせ、そしてこの度、縁あってここ京都写真美術館で開催できることとなりました。
80年以上も前に亡くなっている無名の写真家が今、時を超えて人々を魅了し、人と人とを繋げていくのはまさに写真の力であり、手渡しで伝わる「縁」に感謝の気持ちで一杯です。写真文化の面で欧米より遙かに後発である当時の日本にこれほどの写真家が存在した驚き、そして彼の写真は写真展の枠を超え、かつての日本が脈々と受け継いできた暮らしを考え、また過度な便利さを享受する現代社会へのメッセージとしての作品力を持つものと考えます。間もなくそれを語れる人がいなくなろうとしている今こそ伝えたい写真です。

企画・主催 写真家 石田道行


本展は、京都写真美術館 ギャラリー・ジャパネスク2Fで、2021年11月23日(火祝)から11月28日(日)に展覧いたします。
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