ポーレ・サヴィアーノさんの写真展が2020年10月25日(日)まで 東京都 浅草にある、ギャラリー・エフで開催されています。ギャラリー・エフは、江戸時代末期に建てられた土蔵を有志のアーティストたちが再生したアートスペースです。会場では、トランスジェンダー(※1)、ノンバイナリージェンダー(※2)など、多様なジェンダー・アイデンティティをもつ人々のポートレートが展示されています。
ニューヨークで活動している写真家のポーレさんは、ポートレート写真家としての評価が高く、マリリン・マンソン、レディオヘッドをはじめとする多くのトップミュージシャンの撮影を手掛けています。
その一方で、歴史的事件や社会問題に関するポートレート撮影にも取り組まれています。プロジェクト「FROM ABOVE」では、広島・長崎の被爆者や、第二次世界大戦中の東京、ドイツ、ポーランド、イギリス、オランダ、チェコの爆撃生存者を訪ねて撮影を行うとともに、全ての都市で展覧会を開催。2019年3月には国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館において、ポーレさんが撮影されたポートレート15点が永久展示となりました。
本作のプロジェクト「Embrace」では、2016年よりアメリカやヨーロッパの国々で、多様なジェンダー・アイデンティティをもつ、幅広い年齢の人々の撮影を続けています。ポーレさんは「このプロジェクトを通して、これまでの私たちの認識とは異なるジェンダー・アイデンティティを持つ人たちが世界中で、また世代を超えていかに多くいるかを写真を通して体験してほしい」と訴えています。
「一番辛いのはジェンダー移行ではなく、私の外にある世界です。私はただ、なりたい自分になりたいだけ。他の人と同じように。だって、私は自分を誇りに思っているから。(ニルス)」
本作の横には、プロジェクトの中で蓄積された被写体の方々の言葉も添えられています。 ポーレさんは撮影時、相手の話にじっくり耳を傾け、その心の機微までも写し出そうと努めました。それらの写真や言葉からは、ただただ自身の心に忠実であろうとする姿が見出され、自然と彼らの人生へと思いを巡らせます。また、「抱きしめる」という意味の「Embrace」という言葉を本展のタイトルとした背景には、社会にいるすべての人々をどんな違いがあっても受け入れるという、ポーレさんの思いが込められています。
本展を眺めていると、日常の中に潜む普通という名のものさしが顕在化されます。それは往々にして世の中の多数派の声に依存したものにすぎませんが、その枠組みから外れないように生きることは、ある種の安心感も与えてくれます。しかし、同質な価値観に囲まれて生きていると、どうしても自身の認識の外にある「違い」に対して鈍感になるという側面があります。だからこそ、本展で写し出されている被写体一人ひとりの個性や自分らしく生きようとする姿は、鑑賞者に多くの刺激や気付きをもたらすと思うのです。ぜひ会場で、自身の価値観のその先へと思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
※1「トランスジェンダー」:身体的な性と自身が認識している性とが一致しない人のこと。医学用語である「性同一性障害」は、身体的な性と自身が認識している性とを、外科的手術により一致させたいと望む状態を指す。2019年5月WHOは「性同一性障害」を「精神障害」の分類から除外し、「性の健康に関連する状態」の「性別不合」へと変更した。
※2「ノンバイナリージェンダー」:自身の性を男性・女性の二択では規定できない、またはしない人のこと。男性・女性の中間だと思う人、どちらでもあると思う人、性別は決めたくないという人、その時々で揺れ動く人など多様。日本では「Xジェンダー」と表すことも多い。
YouTubeでポーレさんによるビデオメッセージが3部構成で公開されています!本作撮影の経緯など詳細に語られていますので、ぜひ併せてご覧ください!
Part 1 https://youtu.be/PN_A4p-h2yg
Part 2 https://youtu.be/winSA8DmfR8
Part 3 https://youtu.be/OPSDYqgQNNU
【ポーレ・サヴィアーノ 写真展「Embrace」】
会場:ギャラリー・エフ
会期:2020年9月2日(水) 〜 2020年10月25日(日) 火曜休廊
12:00〜18:00(最終日は17:00まで)
http://www.gallery-ef.com/j.htm
ポーレ・サヴィアーノさん WEBサイト http://www.paulepictures.com/main.html
FROM ABOVEプロジェクト WEBサイト
http://www.gallery-ef.com/fromabove.htm