~鑑賞者とともに光に満ちた「日常」へと前進する写真展~
竹沢 うるまさん 写真展「Remastering」が、12月5日(土)まで代官山駅、恵比寿駅よりそれぞれ徒歩5分ほどのところにあるALで開催されています。
2004年から写真家としての活動を本格的に開始された竹沢さん。これまで訪れた国や地域は140を超えます。 2010年から2012年にかけては、1021日103カ国を巡る旅を敢行し、写真集『Walkabout』と対になる旅行記『The Songlines』を発表。2014年には、インド北部の辺境の村で暮らす女性を撮影した作品「スピティ谷の女」で、第三回日経ナショナルジオグラフィック写真賞グランプリ受賞。2015年に開催されたNYでの個展では、多くの現地メディアに取り上げられるなど、国内外で精力的に活動されています。
そんな竹沢さんが本作で取り組まれたテーマは「日常」。会場には、2005年から2020年までに世界各地で撮影された「日常」をテーマとした作品、全52点が並んでいます。それらの制作の背景には、2020年という年に対する、ささやかな抵抗があったと竹沢さんはいいます。本作制作から見出された気付き、そして今後の作品制作についてお話を伺いました。
写真家というよりも、
2020年を経験した一人の人間としての挑戦
――本展開催に先立ち、クラウドファンディングによる写真集『Remastering』出版プロジェクトに取り組まれたと伺いました。プロジェクトを企画された経緯について、お聞かせください。
2020年はコロナ禍により、世界中の人々が先の見えない不安な日々を経験し、当たり前のように享受していた「日常」を失うことになった年であるかと思います。僕自身、予定していた撮影の仕事は全て無くなり、約4年振りの新作写真展も延期。かれこれ20年近く、世界各地を旅しながら写真を撮り続けてきましたが、その生活までもが制限されました。様々なものが失われていく様子をただ眺めることしか出来ない現状への反動で、多くの人とともに前を向くきっかけとなるような、希望に満ちた何かを生み出せないだろうかという思いが頭をもたげました。そこで、コロナ禍で失われてしまった世界の「日常」をまとめた写真集を出版するプロジェクトを立ち上げたのです。
クラウドファンディングの活用は本作が初挑戦でした。というのも、これまでは誰のためでもなく自分自身のために作品制作を行ってきたので、それを誰かに支援してもらうことは僕自身の意に反しました。ですが本作は、多くの人が制作過程に参加し、ともに1冊の写真集を作り上げたという実感を得ていただくことに意味があると思ったのでクラウドファンディングの活用に踏み切りました。2020年を失うばかりの年にするのではなく、せめてひとつだけでも何かを生み出した年にし、多くの人とともに前へ進む。本プロジェクトは、写真家というよりも、2020年を経験した一人の人間としての挑戦でした。
「非日常」を求めて旅に出た
でも、写真に写っていたのは「日常」だった
――本作は、どういった基準で写真をセレクトされたのでしょうか?
自粛期間中、これまで撮影した大量の写真を1枚1枚見直しました。すると、これまで作品として選んできた写真ではなく、全く気にも留めていなかった写真が気になり始めたのです。それらに共通していたのは、世界の「日常」が写り込んでいたこと。僕はこれまで「非日常」を求めて遠い世界を旅してきましたが、そこにあったのは「日常」だったのですね。これまでの旅では、撮影したいテーマやイメージが先にあり、それ以外の風景に目を向けることほとんどありませんでした。ですが本作の制作を経て、そんな視点が逆転したのです。また旅に出られるようになったら、世界の見え方はだいぶ変わっているのではないかと思います。
――たしかに「日常」は何気ない瞬間の連続ですし、意識的に見ようとしなければ見過ごしてしまう光景が多くあるかと思います。
そうですね。僕たちの周りに存在しているものの、失うまで自覚することができないものこそ「日常」なのだと思います。それはまるで、曖昧模糊とした夢みたいだなとも思いました。そんなイメージを日常の瞬間を重ねたところ、僕のこれまでの作風とは大きく異なる作品に仕上がりました。
作風が変化した背景にも、やはり2020年の特殊な状況が影響しています。本展のタイトル「Remastering」には「再構築する」という意味がありますが、本作はまさに僕たちの失われてしまった「日常」を一つひとつ拾い上げ再構成したもの。この時期でなければ、本作のような作風にはならなかったと思います。自身が置かれている状況やその瞬間の感覚によって、写真はいかようにも生まれ変わるのだということを改めて実感しました。
目に見えないからこそ様々な想像が膨らみ、
ネガティブな状況が加速する
――本作制作にあたり、これまでの作品と改めて向き合われたことで、今後の作品制作について明確化した部分もあるのではないでしょうか?
相手としっかりと向き合ったポートレートが撮りたいという思いが生じました。普段の日常の中で声をかけ、綺麗な光を選んだりと少しだけ手間をかけた上で、様々な価値観を持つ人々を撮りたいです。
――2020年はコロナ禍をはじめとし、社会に分断や混乱をもたらす多くの出来事が生じたことにより、人々の心の分断も顕在化されたように感じます。そんな状況下だからこそ、気になるテーマですね。
分断が顕在化する現代社会において、僕の中では「境界線」への関心が高まっており、それは今後の作品制作においても核となるテーマだと思っています。境界線は人間が生み出した概念でしかなく、100年200年、もしくは1000年2000年といった長期的な視点でとらえると全く意味を成しません。ですが、そういった目に見えない概念に、僕たちが左右されていることもまた事実です。
例えばウィルスにしても、目に見えない未知のものであるからこそ必要以上に想像が膨らみ、ネガティブな状況を加速させている側面があります。であるならば、境界線を可視化することが出来れば、現状に歯止めをかけることにも繋がるのではないかと思うのです。だからこそ、様々な国籍、価値観、バックグラウンドを持つ多様な人々のポートレートが撮りたい。世界を旅する中で出会った人々は、みんな同じ目の輝きをしてるのに何が違うのだろうと思うのです。
本展には、つい笑みがこぼれてしまうような愛おしい日常の光景が溢れています。「本作には特に深いメッセージは込めていないので、写真的な観点は捨てて自由な視点で楽しんでいただければと思います。2020年が終わる前に、何かひとつでも明るいイメージを持ち帰っていただければ本望です」と、竹沢さんはいいます。ぜひ会場で、ご自身の「日常」へと思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
そして 2021年1月には、新作写真展「Boundary」(キヤノンギャラリー銀座) の開催も予定されています。そちらの展示では、まさに「境界線」がテーマとなっているとのこと!竹沢さんの今後の作品からも目が離せません!
【竹沢うるま写真展「Remastering」】
会場:AL 1F main space
会期:2020年11月22日(日) 〜 2020年12月5日(土)
12:00~19:00
https://al-tokyo.blogspot.com/2020/11/remastering.html
竹沢さん WEBサイト
http://uruma-photo.com/
Facebook
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