福岡 陽子 写真展「Biblioscenery / ビブリオシナリー」

レポート / 2019年3月5日

~アンティークの洋書についた装丁の傷みやシワを風景として捉えた作品〜

会場にて、福岡さん。最近、部屋に写真を飾ることに目覚めたそうです。「他の作家の作品を飾ると、自分とは違う価値観や見方が窓として現れた感覚になります。被写体と向き合う中で凝り固まっていく自分の世界が開けるんですね。それにより、発想の転換ができます」。写真の作家だけでなく、すべての人がアートを飾ることでリフレッシュにつながると、話してくれました。

照明が淡く照らす会場に並ぶ、洋古書のポートレート30点。何百年もの年月の中で様々な人々の手を渡ることでできた、装丁の傷みやシワ、色ムラといった発行当時とは違う美しさが映し出されています。

古書の魅力について語る、福岡さん。こうした愛情が、写真作品にも現れています。

洋古書の意図しない美しさを拾いあげるように向き合い撮影しているのは、写真家の福岡陽子さんです。幼い頃から本に魅せられ、現在は英文学系の古書店で勤務する傍ら、洋古書を被写体にした作品づくりを行っています。親の死や自らの病気がスイッチとなり、一つのことをやり続けてみようと身近にある洋古書を撮るようになったのは自然な流れだと、福岡さん。

装丁の皮の傷みや色ムラ、剥げかけた小口の模様など、古書によって様々な表情があるのがわかります。

淡く靄がかった色味が、古書の辿ってきた歴史や所蔵者との関わりについて語っているよう。

作品はすべて勤務先の古書店の書庫で撮影したそうで、装丁の傷みや埃でモヤっとした状態もそのままに、時間の経過、所蔵者の愛情や思いなどが、自然の柔らかい光の中に表現されています。本(biblio)と風景(scenery)を合わせた福岡さんの造語「Biblioscenery」というタイトルで表現しているように、福岡さんは古書についた傷みを美しい風景に見立てているそう。

「日本の書籍とは違うアンティークの洋書は、読む以外にも、所有して飾りたくなる美しさがあります」と、福岡さん。会場には洋古書がディスプレイされていて、自由に手にとって愛でてくださいとのこと。どの本も生きていて、新しい所蔵者のもとへ行く日を待っているのだそうです。

「骨董の壺や茶碗にできたひび割れや釉薬を景色として眺めるように、洋古書を手に取り撫でまわし傷やシワを景色として愛でながら撮影しています。人が美しくないと思っているところに『こういう美しさもあるよ』と、私の視点で見た古書の一番良い表情を差し出したいんです」

会場の中央には、福岡さんが勤めている古書店で取り扱っている洋古書がディスプレイされています。自由に手に取って楽しめるほか、購入も可能だそうです。

福岡さんは全日在廊予定とのこと。ぜひ会場へ足を運び、写真作品や現物を見たり触ったりしながら、アンティークの洋書を風景として愛でてみてはいかがでしょうか。

【福岡 陽子 写真展「Biblioscenery/ビブリオシナリー」】
会期:2019年3月4日(月)~3月9日(土)
10:30~18:30
会場:Art Gallery M84
http://artgallery-m84.com/?p=5699