福島県大沼郡昭和村
産業編集センター 出版部
2022/04/13 ~ 2022/05/13
福島県大沼郡昭和村
【旅ブックスONLINE 写真紀行】
産業編集センター出版部が刊行する写真紀行各シリーズの取材で訪れた、全国津々浦々の風景を紹介しています。
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自然美、高級織物、木造校舎、魅力満載の昭和村へ
昭和村は会津地方の南西部に位置し、只見川の支流である野尻川の段丘に沿って集落が点在している。周囲を広大な湿原や美しい渓谷に囲まれた、自然美の宝庫だ。昭和二年に野尻村と大芦村が合併して一つの村になったことから、昭和村と名付けられた。人口は千二百人に満たず、福島県で二番目に高齢化率が高い村でもある。
どこまでも広がるのどかな田園と、赤いトタンを被せた茅葺き屋根の農家群を眺めているだけでも十分に心癒される風景なのだが、ここは「からむし織」という伝統的な織物の里として、知る人ぞ知る村でもある。「からむし」とは、苧麻(ちょま)とも呼ばれるイラクサ科の多年草で、上布用の原材料として昔から昭和村で栽培されている植物。その繊維で織る「からむし織」は昔からこの地で守り伝えられてきた技法で、織り上がった布は非常に軽くて丈夫で、その涼しくつるりとした着心地は「まるで氷を纏ったよう」と表現されるとか。昭和村で採れたからむしは、村の「からむし織」のほか国の重要文化財である最上級の織物「越後上布」「小千谷織」の原料にも使われているという。
ここでは、畑づくりからからむしの栽培、刈り取り、茎の外側の表皮を削いで中の繊維を取り出す「からむし引き」、糸作り、機織りまで一貫して手作業で生産する。からむしは成長すると人の背丈ほどになり、細く真っ直ぐに伸びる。熟練者の手で引かれたからむしは真珠のように白く美しい光沢があり、村ではこれを「キラ」と呼んでいる。からむし織に従事する女性たちを村では「織姫」と呼ぶが、織姫は村内だけでなく日本各地から来村して村で生活しながら学び、この伝統技術を全国に伝えている。
「道の駅からむし織の里しょうわ」では織姫さんによるこの実演が見られ、また希望者は、からむし織の体験レッスンも受けられる。店内でスカーフや帽子、着物なども販売しているが、なかなかのお値段で、筆者はその肌触りの良さと着け心地だけを十分に
味わわせていただいた。
ところで、昭和村にはもう一つ、村の自慢がある。昭和十二年に建築された二階建ての木造校舎「喰丸小学校」だ。昭和五十五年の廃校から幾度もの解体危機を乗り越え、平成三十年に村の交流観光拠点施設「喰丸小」として生まれ変わった。その経緯がなかなか興味深い。
廃校の後、不要になった校舎にまず最初の解体の危機が訪れた。だが平成四年、文化人類学者の故山口昌男氏が「田舎からの文化情報発信基地」としてこの校舎を「喰
丸文化再学習センター」と名付け、十四年間利用した。この後、二度目の解体話が持ち上がったが、これを救ったのは西島秀俊・倍賞千恵子主演の映画『ハーメルン』である。映画監督の坪川拓史がこの木造校舎に惚れ込み、ここで撮影を行った。
撮影終了後、またしても解体が予定されたが、映画が公開されるまで取り壊しは一旦保留に。その間、地元の人々の間で取り壊し中止を求める署名運動が始まり、映画公開後の平成二十七年、村はついに喰丸小を保存することを決定した。
こうして何度も危機を乗り越え、村と村民にとっての誇り、象徴ともなったこの施設を、人々はとても大切にしている。『ハーメルン』では、施設としての改修がなされる前の、ボロボロだが懐かしい校舎の姿が映し出されている。ここを訪れる前に映画を一度見ていただくと、喰丸小と昭和村の魅力は倍増するので、ぜひお勧めしたい。
『ふるさと再発見の旅 東北』産業編集センター/編より抜粋