香川県観音寺市伊吹町
産業編集センター 出版部
2024/04/13 ~ 2024/05/13
香川県観音寺市伊吹町
【旅ブックスONLINE 写真紀行】
産業編集センター出版部が刊行する写真紀行各シリーズの取材で訪れた、全国津々浦々の風景を紹介しています。
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海上交易と製塩業で栄えた町
讃岐うどんの味を支えている濃厚でうま味の強い「イリコだし」。イリコとはカタクチイワシなどを乾燥させたもので、このイリコの生産量で香川県は全国でもトップクラスとなっている。なかでも、伊吹島でつくられるイリコは、その品質の良さから「伊吹イリコ」と呼ばれ、高級ブランド品として高値で取引されている。
イリコの島、伊吹島は香川県の西端にある。観音寺港の沖十キロあたりに浮かぶ島で、周囲五・四キロ。明治の頃には八百人いた島民も、現在は四百人程度で、そのほとんどが漁やイリコの加工に携わっている。
伊吹島という島名の由来は諸説ある。島の近くの海に漂っていた光を放つ不思議な木「異木(いぼく)」を弘法大師が引き上げ、その木で多くの仏像を刻んだことから「異木島」と名付けられ、それが転じて伊吹島と呼ばれるようになったという。
伊吹島へは、観音寺港から船に揺られること二十五分あまり。島の入り口である真浦港(まうらこう)から上陸する。港に入る前、船上から見た伊吹島は岩盤にへばりつくように家が建ち並び、港のすぐ横にはイリコの大きな加工場が並んでいるのが特徴的だった。
イリコ漁とその加工は、六月から九月が最盛期。漁場と加工場が近く、漁獲から加工まで網元が一貫して行えるのが伊吹島の強み。より鮮度の高い上質な伊吹イリコを生み出す秘密はここにある。残念ながら時期が合わなければ、イリコの加工の様子は見ることができない。だが、港近くにある販売所に行けば、新鮮なままパッキングされた伊吹イリコを手に入れることができる。
港から集落に続く道は、かなり傾斜の強い坂道になっている。建ち並ぶ家の間を必死になって登り歩いていくと、その横をうしろに人を乗せたバイクが次々と追い抜いていく。どうやらバイクは島の人々の重要な移動手段のようで、船が着いたあとは何台ものバイクが坂を猛スピードで疾走していった。
海風に背を押されながら、急な坂道をひたすらのぼっていく。途中、うしろを振り返ると眼下には漁師町特有の家々の屋根が連なり、その向こうに瀬戸内の海が広がる。イリコ加工の最盛期には、朝早くから船が港を出入りし、加工場の機械の動く音が港に響き渡り続けるという。そんな活気ある島の風景も楽しいだろうが、シーズンオフの静かな島の風景もなかなかいい。坂を降りて港をぶらぶらすれば、どこから来たのか島の猫たちがこちらに寄ってくる。何か食べたいのだろうか。おいしい餌にありつけるカタクチイワシ漁が始まるまで、猫たちにとって我慢の時間が続くのだ。
※『ふるさと再発見の旅 四国』産業編集センター/編 より抜粋