北海道茅部郡鹿部町

産業編集センター 出版部
2025/04/15 ~ 2025/05/16
北海道茅部郡鹿部町
【旅ブックスONLINE 写真紀行】
産業編集センター出版部が刊行する写真紀行各シリーズの取材で訪れた、全国津々浦々の風景を紹介しています。
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9000年前からの漁場、現在は国内最高級の昆布の産地
渡島《おしま》半島南東部にある鹿部は、約9000年前の縄文時代から、さまざまな魚介類を獲ってきた歴史ある漁場である。また活火山駒ヶ岳の麓にあるこの地域は、有史以来何度も繰り返されてきた噴火によって流紋岩や花崗岩が多く形成され、豊富なミネラルが噴火湾に流れ込むことで、良質な昆布が育つ環境にあった。14世紀頃から、この昆布を獲って交易するアイヌがいたという記録が残っている。
1615年、大間の司馬宇兵衛という漁業者が優良な昆布を求めてここに移住し、道内屈指の昆布産地を築き上げた。こうして鹿部の町が生まれたといわれている。以後、鹿部は真昆布の産地として全国的に知られるようになる。特に世界中でここでしか獲れず、しかも年に数回しか採取できない貴重な天然の白口浜《しろくちはま》真昆布(切り口が白いのでこう呼ばれる)は、だし汁の清澄さや味の上品さから最高級の昆布といわれている。
昆布漁は毎年7月初めから九月中旬頃まで行われる。日の出とともに二人か三人乗りの小さな船で出漁し、沖合に出て長さ2〜10メートルの「柴ねじり竿」(通称:まっか)を使って海中から昆布を刈り取る。水揚げされた昆布は船から下ろし、家族総出で海岸に小石を敷き詰めた「干場」で一本一本ていねいに干し、夕方には倉庫に取り込む。だから天気が非常に重要で、昆布が一日でパリッと干し上がるような晴天の日にしか昆布漁はできない。これに対し、養殖昆布は陸上の施設で種苗を培養し、その後沖に出して1年から2年、海中で養殖する。そしてこの期間中に間引き、株分け、水深調整などを行うので、昆布の傷みが少なく、葉の大きさも揃ってくる。水揚げ後は倉庫内で機械で乾燥することが多く、気候にも左右されにくい。コストも抑えられるとあって最近では養殖昆布の生産量が天然を上回っているそうだ。
鹿部には、昆布漁以外にもいくつか見るべきものがあるのだが、その一つが「道の駅しかべ間歇泉公園」で見られる、国内でも珍しい天然の「間歇泉《かんけつせん》」である。間歇泉とは、周期的に地面から噴き出す温泉のことで、鹿部の間歇泉は10〜15分間隔で湯温103度の温泉が15メートル以上の高さまで噴き上がる。自然の力だけでものすごい勢いで噴き出す熱湯を目のあたりにすると、地球が生きていることを実感する。
ついでに鹿部にあるユニークな歴史話をひとつ。約300年前、松前藩は幕府の恩借米の代わりに優良な鷹を一羽三十五両として献上したが、鹿部は昔から野生の鷹が多く、これに大いに貢献した。このことから鹿部は当時「鷹待」という名で呼ばれ、現在の函館本線の鹿部駅は「鷹待駅」という駅名だったこともあるそうだ。
※『ふるさと再発見の旅 北海道』産業編集センター/編より抜粋