JPG’s FAVE #4 大黒実紗希 × 齋藤菜沙奈『むすびめをほどく』

大黒実紗希 × 齋藤菜沙奈
2025/07/29 ~ 2025/08/10
Jam Photo Gallery
Jam Photo Galleryが注目の新進写真家をピックアップする JPG’s FAVE。第4回目となる今回は日本大学芸術学部写真学科でGOTO AKIゼミに所属する大黒実紗希と齋藤菜沙奈による展示を行います。旅の中で見出された感覚や記憶に耳を澄ますという点で、大黒と斎藤には「身体を通して世界とつながる」ことへの共通したまなざしが見られます。
GOTO AKI コメント
大黒は、都市で抱えていた孤独の奥にある「声にならない感情」を抱えながら沖縄を旅し、人々のやさしさや土地の光に触れたとき、自身の心が静かにほどけていく体験を写真に刻んでいます。一方、斎藤は、幼少期の事故によって失われた記憶と身体の感覚を異国の旅の中で静かにたぐり寄せながら、風や匂い、揺らぎの中に「生きようとする身体の反応」を写し撮ろうとしました。身体の奥に眠る記憶や感情を出発点としつつ、それを風景や出会いの中に重ねていく二人の写真には、自己と世界のあいだにある目に見えない境界線をそっとなぞるような繊細さと誠実さが感じられます。心や身体の深層に宿る「記憶の感覚」を写し撮ろうとする斎藤と大黒の初の二人展。この機会にぜひご高覧ください。
大黒実紗希『溶け合って、いつか陽だまりになる』
上京して数年、私はずっと一人で生きることの孤独を抱えていた。誰もいない家に帰る日々。外に出なかった日は、テレビに向かって笑った声が初めて発した声だと気づくこともあった。心のどこかに、ずっと埋まらないまま残っていた空白。そんな私の空白をそっと満たしてくれたのは、沖縄の光と人の思いやりだった。……島の人がきさくに声をかけてくれた。気づけば会話が広がり、笑い声がテーブルの上を行き交わっていた。「沖縄の言葉で“イチャリバチョーデー”って知ってる?一度会えばみんな家族みたいなものって意味さ。今日ここで出会えたから君はもう他人じゃないんだ」思わず尋ねた。「また、ここに来てもいい?」「いつでも帰っておいで」その言葉に、自分の存在がすくい上げられた気がした。
沖縄では、都会で抱えていた張りつめた孤独がふっとゆるみ、静かにほどけていくのを感じた。……ファインダーをのぞき、シャッターを切るたびに、私と世界はやわらかく結び直され、写真に映る風景は、そっと語りかけるように「ひとりではないよ」と寄り添ってくれる。
齋藤菜沙奈『冬の砂浜』
踊ることが大好きだった。踊っていると頭は空っぽになって、音に合わせて勝手に身体が動く。爆音で鳴り響く音楽と、自分の荒い息だけが身体を纏う。自分の中で「踊る」と「生きる」という言葉が同じ意味になっていた。しかし10歳の頃、私は突然横から突き飛ばされ、鉄の扉の角に頭を打ちつけて気を失った。この事がきっかけで踊り続けることが難しくなり、ダンサーになるという夢を諦めることになった。人生は突然の出来事で、大きく変化するものだと思い知った。
当時のことはあまり覚えていない。嫌な記憶を消すために、子供の頃の記憶を全体的に消してしまった。それでも死への意識は残り、後悔したくないという思いは私を旅へと連れ出した。……生きている実感は身体が感じた風や匂い、気配といった生命の跡によって引き起こされていた。私はこの感覚に反応して写真を撮る。音に合わせて勝手に動く身体のように、思考に至る前の身体が受け取った、感覚の反応としてシャッターを切った。
▼写真展概要
JPG’s FAVE #4
大黒実紗希 × 齋藤菜沙奈『むすびめをほどく』
会 期:2025年7月29日(火)~ 2025年8月10日(日)
12:00~18:00(日曜17:00まで)/月曜休廊
会 場:Jam Photo Gallery(www.jamphotogallery.com)
〒153-0063 東京都目黒区目黒2-8-7鈴木ビル2階B号室
入場料:無料