アン・ジュン 展覧会「One Life」

レポート / 2019年1月21日

~死へ向かう生をリンゴで表現したコンセプチュアル作品~

「〈リンゴ〉は歴史的に様々なモチーフに使われてきました。美術史や哲学を学んだアン・ジュンさんだからこそ、死生観を表現するものとして〈リンゴ〉を扱っているのだと思います」と、ディレクターの小林さん。

渋谷ヒカリエのすぐ隣にある雑居ビル B1Fにある「CASE TOKYO」は、アートブック専門の出版社CASE Publishingの展示スペースです。写真集など出版物に関した展示を行う場として、一般的な写真展とは違った視点からの展示が行われています。

現在行われているのは、Ahn Jun(アン・ジュン)さんの国内初の個展です。2018年10月に刊行された写真集『One Life』に収録された88点の中から、22点のプリントが展示されています。

写真集の色見本として使われたプリントのため、比較的小さめの作品が並びます。プリントは小さいですが、その中に広がる世界は広く、考えさせられます。

地面スレスレの瞬間を捉えたものと、少し余裕のある位置で切り取ったものなど。
「どうすれば死と生を目に見える形に置き換えられるのだろうか? 生への理解が私たちに内在する“恐れ”を和らげることはないだろう、だからこそ偶然と必然が運命のように交差する時に生み出される「一瞬」が美しい。ーーアン・ジュン」(ステイトメントより)

アン・ジュンさんはアメリカで美術を勉強し、現在は韓国ソウルを拠点に活動する女性写真家です。祖父の死がきっかけで考えるようになったという死生観のメタファー「生きるとは死へ向かうもの」を、写真を通してコンセプチュアルに表現。家族が空中に投げたリンゴを高速シャッターで撮影した作品は、緩やかな放物線を描きながら落下に向かう過程を切り取っていて、その先の死を予想させます。

会場の様子。写真集に収録されているレイアウトに近い形での展示。広めにとられた余白の存在が、作品の世界観を引き立てています。

撮影場所は、ソウル、日本、トルコ、アラブ首長国連邦、イギリス、アイルランドなど世界各地。ちなみに、リンゴは現地で調達しているそうです。

CASE TOKYOのディレクター・小林 暢弘さんは「アン・ジュンさんは韓国を中心に世界中で活躍している写真家です。写真集の出版記念として、収録作品のプリントをはじめ、刷り出しや色見本、束見本といった過程の付随物を展示しています。ぜひ写真集も手にとって見ていただきたいです」と話してくれました。

『One Life スペシャルエディション』のサンプル。布貼りの特製ボックスに、作品集とオリジナルプリントがセットされた100部限定の特装版。箱の内側に作家サインとエディションナンバーが入っています。 編集、ブックデザイン:田中義久、 寄稿:Nathalie Boseul Shin

束見本、箔押し用の金型など、写真集の制作過程やこだわりが伝わってくる展示内容になっていて、通常の写真展とは一味違ったユニークな展示が楽しめます。ちなみに写真集に使われている紙は少し黄味がかっています。デザイナーが作家の意図をくみ、時間の経年変化を表現しているとのこと。

会場には写真集とプリント付きの特装版を展示販売しているほか、装丁の箔押しに使われた金型なども展示。また、隣接スペースでは、同時発売のアン・ジュンさんのセルフポートレート集『Self-Portrait』(赤々舎)をはじめ、様々な写真集が販売されています。

死生観のメタファーをリンゴで表現したコンセプチュアルな世界に興味のある方は、ぜひ会場へ足をお運びください。

隣接しているBOOKスペース。同時発売のアン・ジュンさんのセルフポートレート集も展示販売しています。壁には「One Life」(左)と、「Self-Portrait」(右)のプリントが展示されています

BOOKスペースの壁面にはCASE Publishing、Zen Foto Galleryの写真集が展示販売されています

【アン・ジュン 展覧会「One Life」】
会期:2018年12月15日(土)〜2019年2月2日(土)
11:00~19:00
会場:CASE TOKYO(休廊日:月・日・祝祭日)
http://case-publishing.jp/jp/exhibitions/tokyo