道原 裕 写真展「足音の町」

レポート / 2017年10月14日

写真の中に彷徨い込む自分の足音を感じてほしい!

会場には40点の町の風景が並びます。
撮影場所は東京の小都市・府中。古くは旧石器時代の遺跡が発掘され、奈良時代には国府が置かれた交通の要所、そして写真家・道原裕さんが青春時代を過ごした地です。その町を撮影するにあたり、道原さんはあえて人影のないシーンの撮影にこだわったといいます。

DMにも使われている作品の前で。「色の違うブロック塀は後から追加されたもの、そこに誰かが落書きし、その文字にかぶるように白いガードがつくられています。しかもその狭い間を人が通っている痕跡が! そういう人々の営みや歴史が想像できるのがおもしろいんです」と道原さん。

「画面に人が入ると、その人を中心とした物語ができてしまう気がします。だから、あえて人がいないところを撮影しました。そうすると、撮影している自分も、作品を見てくれる人も、写真の世界に入り込むことができるんです。何度も歩いた道、瞬発的におもしろいと感じた場所など。場所によっては人の往来が激しく、意地になって人波が途切れるのを待ちましたね」

不思議なのは、作品に人影が写っていない一方で、人々が暮らしている生活感がとらえられているところです。例えば何気ないブロック塀を写した作品は、コンクリートの風化度合いから設置していく過程が想像でき、その場所を通った人々の存在や足音を感じることができます。

「僕にとって『足音』とはメタファー(隠喩)。イメージ(写真)と現実を行き来している感覚になるんですね。T・S・エリオットの詩『四つの四重奏』の『バーント・ノートン』の一節に影響を受けています。皆さんも、写真の世界に入り込む自分の足音を感じながら作品を見てもらえればうれしいです。もちろん、その場では分からないかもしれません。後からでも、何か気づきや発見につながればと思います」

人影のない町の写真は、東日本大震災などで人々が避難した後の世界観もイメージしているのだそう。

これからも写真を撮り続けたいと話す道原さん。フレキシブルな思考で新しい作品づくりに取り組んでいます。会期中はほぼ在廊しているそうなので、気になる方はぜひ会場へ足をお運びください。
また、11月17日からはエプソンイメージングギャラリー エプサイトで別シリーズの写真展「中有(ちゅうう)」が決まっているそうなので、併せて足をお運びください。

【道原 裕 写真展「足音の町」】
会期:2017年10月11日(水)〜10月17日(火)
10:30~18:30(最終日は15:00まで)
会場:銀座ニコンサロン(日曜休館)
写真展情報