村上 華子 個展「ANTICAMERA(OF THE EYE)」

レポート / 2017年12月25日

~網膜に焼きついた時間の記憶を、古典写真技術で表現~

会場中央に立つ村上さん。ギャラリーは、第一生命本社が入居するビルの1階にあります。天井高のシンプルな空間を贅沢に使った展示で、じっくり作品の世界に没入することができます。

日比谷駅すぐにある第一生命ギャラリーは、現代美術の展覧会「VOCA展」の受賞作品の所蔵・公開、およびVOCA展受賞作家の個展を行っている、第一生命が運営するギャラリーです。

「小さな網膜も、人の身体より大く引き伸ばすことで意味が変わります」と村上さん。1750×1230mmに引き延ばされた作品の迫力と、澱粉が描く複雑な模様の光彩を楽しめます。

会場に入ると真っ先に目に飛び込んでくるのは、最初期のカラー写真技法であるオートクロームを用いて作られた4点の大きな作品「ANTICAMERA(OF THE EYE)」です。Anticameraとは解剖学用語で「眼房」の意。角膜と水晶体の間にある部分を指します。
写真を網膜のアナロジーとして捉えているという、作家の村上華子さん。人が世界を知覚する時に、ものを見る行為がどう成立するかに注目し、網膜に入る少し手間の部分である眼房をテーマにしたそう。
100年前に作られた未使用のオートクローム乾板を現像して引き延ばした作品は、閉じたまぶたの裏で像を成す残光を見ているような感覚になります。複雑な模様を描く小さな色の粒が、乾板に刻まれた時間の経過を語っているよう。

4点の作品からなる「ANTICAMERA(OF THE EYE)」。網膜に焼きついた光がまぶたの裏で像を成しているようにも見えます。

会場には「ANTICAMERA(OF THE EYE)」をはじめ、古典写真技法のダゲレオタイプにデジタル写真を焼きつけた「APPARITION(OF THE SUN)」、1日1枚フィルムカメラで太陽を撮った「Sun Diaries」、そして100年前のガラス乾板の感光膜の形状で技術自体のもつ記憶を浮き上がらせた新作「Pelliculis Pelliculas」の、4つのシリーズが展示されています。

古典写真技法のダゲレオタイプにデジタル写真を焼きつけた4枚組の「APPARITION(OF THE SUN)」。原理的には1点しかつくれないものを複数つくる試みは、無限に複製可能な現代のデジタル写真を、写真の祖先であるダゲレオタイプに送り返す意味を含んでいると、村上さんは言います。

「Sun Diaries」は、1日1枚フィルムカメラで太陽を撮った記録をコンタクトシートとして作品にしたもの。場所や天候によってさまざまな表情を見せる太陽の姿が面白く、「意図したわけではないけれど、眼底写真みたいに見えます。すべて別々に作った作品ですが、こうして展示すると呼応するところがあるのに気づきます」と、村上さん。

「意図や作為を無くすことで、技術自体が持つ時間の記憶を引き出しました。そこには誰も見たことのない世界があり、だからこそ人の心に響くのだと考えています。100年の時を経て網膜に記録された世界を感じてほしい」。

あえて手間ひまのかかる古典的な写真技法で作品づくりをする村上さん。
ぜひ会場へ足を運び、技術という網膜に焼きついた「時間の記憶」をお楽しみください。

新作の「Pelliculis Pelliculas」は、入手した100年前のガラス乾板を使ってつくられた作品。「薬液に浸すと感光膜が剥がれて浮かび上がってきます。それをもう一度ガラス板の上にすくいとって引き延ばすことで、板自体が持つ時間の経過をそのまま見せています」

【村上華子 個展「ANTICAMERA(OF THE EYE)」】
会期:2017年12月11日(月)~2018年1月19日(金) ※
12:00~17:00
会場:第一生命ギャラリー(休館:土・日・祝)
https://www.dai-ichi-life.co.jp/dsr/society/contribution/gallery.html