高木 あつ子 写真展「片品村のカヲルさん」

レポート / 2017年11月8日

“いいからかん”なカヲルさんの姿を通じて、働くこと、生きることを伝えたい!

のどかな里山を背景に煤(すす)けた顔で笑う、片品(かたしな)村のカヲルさんを写した一枚。気張らない自然な表情は、とても輝いて見えます。
高木あつ子さんは、これまで人物にフォーカスした作品づくりをしてきた女性写真家です。尾瀬の入口にある小さな集落・群馬県片品村へ移住した女の子の取材を通して、個性豊かな村人の人間模様を知ったそう。とりわけ、炭焼き業と糀(こうじ)づくりを生業とする「カヲルさん」の存在に惹かれたと言います。

これまでに6×6カメラで様々なお母さんたちを撮った「母なるひとたち」シリーズなど、「人」にフォーカスして作品づくりをしてきた高木さん。「このシリーズはこれでいったん終了しますが、今後もカヲルさんを撮り続けたい」と、意気込みを語ってくれました。

カヲルさんは20代で嫁入りしてから88歳までずっと炭切り(窯出しした炭を規格に合わせて切ること)をしてきた方。軍手や靴下が左右で違うのはしょっちゅう。「ちょっと炭を切ってると、顔が煤で真っ黒になるから、えれー働いたように見える」と話す“いいからかん”さは、高木さんの目に眩しく見えたそう。「いいからかん」とは、片品弁で「いいかげん」の意。
しかし、“いいからかん”なカヲルさんは炭切りや糀づくりとなると一変。ほとんど目が見えないにも関わらず、僅かな太陽光が差し込む暗い炭焼き場で淡々と炭を切る姿は、絶対的な凄みがあるのだと、高木さんは教えてくれました。

正面の壁には、炭焼きシーンをまとめたA1サイズの作品が並びます。「視力が低下し、ほとんど見えていないはずなのに、高速カッターで炭を切る手つきは迷いがないんです。身体が覚えているんですね。長年培ってきた凄さを感じました」と、高木さん。

炭焼きシーンをまとめた一画には、カヲルさんの息子さん作の炭がディスプレイされていて、自由に触れることができます。

「何十年も繰り返す中で身に染み付いた動きは、なんて綺麗なんだろうと思いました。誰に見せるわけでもないのに、静かに淡々とやり続けるカヲルさんの姿や動作は、とても強く美しいんです。どんなに地味な仕事でも継続することは大切。これは誰にでも共通することだと思います。一方で、自分のことを“いいからかん”と表現する自然な姿から、真面目にやるだけじゃなくていいんだと、ほっとしました」

靴下の裏に米粒をくっつけながら真剣な表情で糀づくりをするカヲルさんや、左右で異なる色の軍手を着けて炭切りをするカヲルさんなど、カヲルさんのいいからかんさと凄みの両面が丁寧に写し出されています。
働くということ、生きるということについて何かを感じたい方、高木さんの世界観に興味を持った方は、ぜひ会場へ足をお運びください。

高木さんと出会った頃のカヲルさん。春の訪れと同時に始まる糀づくりの様子を写した一画。片品村のカヲルさんのように、日本各地の農山村では季節に合わせて様々な仕事
をしています。
「農山村に出向き、この世代の人たちを撮っています。長年培ってきたものがあるから。働くって、すごいこと。強いですよね」と、高木さん。

「最近の作品はカヲルさんが90歳のもの。しゃきっとしているんだけど、農作業をしながら畑で寝ちゃうとか。こうして時の流れに逆らわず、受け入れながら、大地に溶けていくように歳を重ねていくんだなーと感じます」と、高木さん。約10年分の作品を眺めながら話してくれました。

「カヲル婆さんのいーからかん人生相談」が連載されている、食のライフスタイル誌『うかたま』。高木さんは、別コーナー「耕す女子たち」の撮影を担当。

「人って、おもしろい。人から見えてくるものを吸い取って、昇華し、放つのが、写真家としての私の仕事だと考えています」と、高木さん。その言葉どおり、どの作品からも、カヲルさんという被写体の人間味が伝わってきます。

【高木 あつ子 写真展「片品村のカヲルさん」】
会期:2017年11月3日(金)~11月16日(木)
10:30~18:00(最終日は14:00まで)
会場:エプソンイメージングギャラリー エプサイト

高木あつ子オフィシャルサイト
https://www.atsukotakagiphoto.com/