海原 修平展「老上海」

レポート / 2018年10月25日

約20年前の上海の路地文化を伝える

IG Photo Galleryは東銀座の法律事務所内にある写真専門のギャラリーです。2018年3月のオープン以来、多様な写真展やトークセッションなどが企画されています。

現在展示されているのは、上海をテーマに撮影している写真家・海原修平さんの作品です。タイトルにある「老(ラオ)」とは「古い、趣のある」の意。上海にはかつて城壁に囲まれた老街(古い街)が存在していました。外国資本により目覚ましい経済発展を進める城壁外と比べ、壁の内側は1930年代の建物が密集した迷路のような狭い路地を人々が行き交う取り残された地だったそうです。作品には、路地を中心に営まれる独特の文化や生活が広がっています。

老上海の作品を前に、海原さん。撮影で上海へ滞在していた折、旧友の食堂でご飯を食べても「親戚のような付き合いの君からお金を受け取る気はない」とお金を払わせてもらえなかったそうです。上海の人々は、一度懐に入れた相手と深くつき合う人情があるのだと、当時を懐かしんでいました。

「こういう歴史と文化の残る街ってあまりないから、解体撤去される前に撮るぞ!と、撮影して回りました。現在はオフィスビルやマンションが建ち並び、道路が整備され、撮影当時の面影はほぼ残っていません。再開発は止むを得ないことですが、だからこそ客観的な視点で記録しておく必要があると思います」

また、会場に流れる音は、海原さんが録音した撮影当時の街の音です。物売りをする人の声や壊れたバイクのマフラー音など。目と耳の両方から老上海の文化に触れることができます。

「文化や人々の生活が最も表れている路地感を出すことにこだわり、140度のパノラマで撮影しています。街の見せ方の一つと考えています。今はデジタルの時代ですから、もっといろんな表現があっても良いのではないでしょうか。自分の固定観念を一度チャラにすれば、新しい考え方がきっと生まれます」

展示作品は海原さんの写真集『消逝的老街1996-2000』から、ギャラリーのディレクターである写真評論家のタカザワケンジさんがセレクトした35点のデジタル・リマスター。約20年ぶりの日本での個展を通して、中国と日本がこの20年で辿った変化を客観的に考えることができる写真展です。ぜひ会場へ足をお運びください。

日本では1997年の個展に続いて2度目の個展、上海では上海美術館や上海料案館などで何度も個展を開いています。海原さんの目を通して客観的に切り取られた上海の老街や人々の様子は、後に博物館からの求めで史料として寄贈されるほど記録性の高いものでもあります。

いくつかの作品に写る建物に書かれた「拆」の字は、再開発のために取り壊しが決定した印。取り壊された建物前の路地を行く人々の姿が印象的でした。

会場では作品や写真集の展示販売もされていて、売上は岡山出身の海原さんの希望で、平成30年7月豪雨災害義援金として全額寄付されるそうです。

【海原 修平展「老上海」】
会期:2018年10月16日(火)~11月2日(金)
12:00~20:00
会場:IG Photo Gallery(休廊:日・月・木)
https://www.igpg.jp/kaihara.html
※ギャラリーは辰中ビル3階の石田法律事務所内にあります