西窪 愛子 写真展「日常の淡い毒」

レポート / 2018年10月27日

キャンパス地やアクリル板に焼きついた、甘やかで残酷な時間

ギャラリーにて西窪さん。「よく版画や水墨画ですかと聞かれますが、モノクロフィルムの銀塩ですよ」と、とても気さくに説明してくれました。

西窪愛子さんは、パリの街をモチーフに、自分や誰かの記憶の一部を想起させる幻想的な作品づくりをしている、パリ在住の写真家です。

今回の作品テーマは「時間」。人間がつくった「時間」という概念を突き詰めていく中で西窪さんが考え至ったのは、自然界の中に存在するものは生と死を繰り返す生命のサイクルだということ。

「木が生い茂り、枯れて、再び葉が茂るように、自然のサイクルって純粋で単純ですごく良いと思いました。人間も同じで、時間の制約に焦燥感やわずらわしさを覚えると同時に、時間によって癒される部分もある。それは時に甘やかで、時に残酷で…。そうした日常に潜む軽い毒──人生の苦味のようなものを表現しています」

展示されているのは、ローライフレックスで撮ったモノクロフィルムを、キャンバスと2種類のアクリル板に焼きつけた計15点の作品です。濃淡やかすれが独特のキャンバス作品、窓から入る外光により多彩な表情を見せるアクリル作品など、ムダな情報を除いたシンプルでフィジカルな幻想世界は、見るほどに琴線を刺激し、遠い記憶が呼び起こされる気がします。

「銀塩プリントと同じ原理ですが、土台を選び、自分で薬剤を塗布することで濃淡や手の跡を残すことができます。自分の気持ちが動くまで突き詰める作品づくりは、私にとって想いを発信する方法です」

これまでニュートラルな作風だった西窪さん。今回の作品づくりを機に、誰しもが持つ淡い毒性のような感情を表現するエッヂの利いた作品を発表していきたいと、今後の意気込みを語ってくれました。

西窪さんの作品に興味のある方、「人生の甘味と苦味」というキーワードが気になる方は、ぜひ会場へ足をお運びください。
西窪さんは今回の展示にあわせて帰国されていて、展示期間中は毎日在廊しているそうです。

西窪さんのギャラリー選びのポイントは、外光が入り、透明アクリル板の作品を吊るして展示ができるところ。取材中も、道行く人が窓越しの作品を見て足を止めていました。光の捉え方が独特で、見ていると自分の記憶に残る淡い断片を思い出します。

こちらは15角(150mm×150mm)の作品。
展示作品は全て1点ものです。

こちらはキャンバス地の作品です。色のかすれた独特の風合いが素敵です。
写真左が50角、右が30角。

【西窪愛子写真展「日常の淡い毒」】
会期:2018年10月26日(金)〜10月30日(火)
11:00~19:00(最終日は18:00まで)
会場:ギャラリーイロ
https://1-6.jp/amertume-du-quotidien/