川瀬 一絵 写真展「風が吹いている」

レポート / 2018年11月7日

刻々と移り変わる気配を感じる作品

ギャラリーが集まる馬喰町駅より徒歩2分にあるdragged out studioは、スタジオ兼ギャラリー機能を持つオルタナティブスペースです。展示をはじめ、エキシビジョンやワークショップなど、多くのイベントが催されています。

祖母のカメラで学校帰りの田舎道を撮影して歩いたのが写真に親しむきっかけだと話す、写真家の川瀬一絵さん。レンズを通すことで気づいた季節の移り変わりを見逃したくないと、シャッターを押していたそう。作品づくりでは、被写体との距離感を大切にしていると話します。会場に展示されている作品も、川瀬さんが見たまま感じたままの風景です。

「文化も建物も気候も日本と異なるベルリンを訪れた時、ふと以前から知っているような気配を感じました。昔から続いている時間や空気といった流れのようなものの中に、様々な文化や事情があるだけなのだと俯瞰して感じる瞬間が確かにありました。その感覚を忘れたくなくて、シャッターを切りました。忘れてしまうものを写真で撮っておくことはとても大切。見たままをそのまま撮ることは難しいけれど、イメージを重ねて見ることで、その瞬間が確かにあったともう一度確認できるから」

時間の経過を感じさせるような並べ方や、見る人が操作したり作品の中に入っていくことで完成するような展示を意識していると話す川瀬さん。
会場には、風に揺れる樹木を連続して写した4点から成る作品〈風が吹いている〉、だんだんと濃くなっていく夕暮れ空の色彩を表現した〈色相方位磁石〉、二国から流れ込む二つの大河が合流し共に流れていく水面を写した〈Koblentz〉のほか、ワールドカップに沸くベルリンの町を写したとフィルムと、ベルリンからの帰路で立ち寄ったドーハで見たニュースを映像で記録した〈On the light〉が展示されています。

目線の位置が、被写体との距離感を表現している。写真正面の上方に展示されているのが〈風が吹いている〉。同じ構図・同じ被写体を撮った4枚ですが、わずかな違いの中に樹木を揺らして吹き抜ける風の存在を感じます。写真左側が〈色相方位磁石〉。飛行機の窓から撮った夕暮れを帰国後にプリントで再現しようとして、微妙な色相を忘れていることに気づき、色の位置をとどめておく指標があればいいのにとの思いから、作品名が出来たそう。写真右側の下方に展示しているのが〈Koblentz〉。ライン川とモーゼル川の二つの大河が合流するドイツの町・コブレンツのことで、町名はラテン語のcongluentes(コンフルエンテス):共に流れるが由来だそう。

木々や空や川が移ろう穏やかな風景だけでなく、同じ時の中で現実が当たり前のように流れていく。そうした自然と人の気配を感じながら、ゆっくり眺めていたい作品です。ぜひ会場へ足をお運びください。川瀬さんは10日(土)、11日(日)は在廊しているそうです。

それぞれの作品の展示の高さを変えることで、被写体との距離感を表現しています。川の作品は下方に、樹木の作品は少し見上げる位置に。また飛行機の窓から見た夕暮れ空の作品は、窓枠と同じ大きさにすることで見る人がその場にいるような感覚を生み出しています。

映像とスライドで表現した作品〈On the light〉。ベルリンのカフェやレストランでワールドカップのサッカー観戦を楽しむ人々。一方で帰路に立ち寄ったドーハではワールドカップの中継はなく、暴動を伝えるニュースや娯楽番組が流れていたそう。写真作品も含めて、すべてほぼ同じ時にあった出来事をそのまま表現しています。

【川瀬 一絵 写真展「風が吹いている」】
会期:2018年11月2日(金)~11月11日(日)
12:00~20:00
会場:dragged out studio
http://dragged.jp/news/