~廃業店舗が持つ記憶の情景までをも切り取る、直向きな撮影スタイル~
長野県松本市に生まれ、現在は東京に在住し、関東圏の街並みや建築物を中心とした撮影に取り組む、写真家の小林さん。本展「廃業2」はシリーズとして、2019年5月にもPLACE Mにて個展を開催されました。
本展では、関東一円に点在する廃業した店舗跡を5年以上かけて巡り、撮影した作品が展示されています。ユニークな外観を呈する廃業店舗の数々からは、現代建築にはない風情や、独自の個性が見出されます。また本作品には、それぞれの店舗が賑わっていた当時を彷彿させる痕跡も見受けられ、作品の背景に横たわる当時の情景や、そこに集う人々の営みをも想起させます。
――廃業した店舗跡を撮影された経緯を教えてください。
ある廃業店舗との偶然の出会いがきっかけで撮影を始めました。昔ながらの街並みを撮影するため、友人たちと茨城県石岡市を訪れた際にその建物と出会い、目にした瞬間、綺麗だなと一気に引き込まれました。人間が造った建物ですが、そこに自然が融合しているところも魅力的!撮影を重ねる中で、それぞれの個性が見出されてきたことも、廃業店舗を撮影する面白味の一つです。
――2017年にPLACE M、翌年2018年には銀座および大阪ニコンサロンにて、写真展「鋭角地」を開催されましたね。そちらも本展同様に、街中の建築物に着目されていましたよね!
本作品は「鋭角地」と並行し、かれこれ5年ほど撮影を続けています。人を撮ることが苦手なので、街や建築物に人を投影させているのかもしれません。そういった視点で廃業店舗をとらえると、これらは全て店のデスマスクなんです。デスマスクを見ると、故人の人生がどのようなものであったか偲ばれると言いますが、本作品も同様で、店のデスマスクを見ると、その店舗が賑わっていた頃へと自然と思いを馳せるのです。
――作品から当時の光景を想像するのも楽しいですね!
そうなんです!経年劣化で店舗名が分からない建物があったり、全てが明らかになっているわけではないからこそ、想像する楽しみが生まれます。僕が切り取る建物は、昭和に造られたものばかり。僕自身、昭和生まれということもあり、店内が想像できることもあります。子供の頃に似たようなお店に入ったことがあったな、きっと店内にはカウンターがあって、その奥にはテーブルがあるんだろうなとかね(笑)
――本作品からは、全て一定の距離感、アングルで淡々と撮影されている印象を受けました。
建築物のポートレートとして撮影しているので、それぞれの特徴が最も正確に写し出せる位置から撮影することを意識していました。そうすると、正面からの撮影に自然と落ち着きました。例えば、斜めの位置から撮影する場合、そこには撮影者の意図が生じます。建物の個性を際立たせるためには、作品の中に僕の存在は不要だと思うのです。
――額装した作品が並ぶ中で、こちらの一繋ぎの作品が目を引きますね!
会場を商店街にしてみたかったんです!額装した作品も大きめにプリントし、左右の作品の隙間を狭くしたことで、実際に商店街を歩いているかのような雰囲気を演出しています。
小林さんが切り取る廃業店舗のありのままの景観は、ノスタルジックな魅力のみならず、その店舗に刻まれた記憶をも浮かび上がらせます。歩んできた人生がそれぞれ異なるように、本作品から想起される情景も見る者によって変化します。ご自身の目にはどう映るのか、ぜひ会場で確かめてみてください!
【小林 マコト 写真展「廃業2」】
会場:PLACE M
会期:2020年9月7日(月) 〜 2020年9月13日(日)
12:00-19:00
https://www.placem.com/schedule/2020/main/20200907/exhibition.php
小林 マコトさん WEBサイト https://mkphotopage.com/