~子どもたちの視点の違いが可視化する、多様性の持つ可能性~
PICTURE THIS 2020 “Yokohama Inter national Youth Photo Project 写真展 Exhibition” が、「日本大通り駅」より徒歩3分ほどのところにある、象の鼻テラスで開催されました。本展は、横浜を拠点に活動するボランティア団体「Picture This Japan」が主宰する、「横浜インターナショナル ユース フォト プロジェクト 2020」の参加者による写真展です。
本プロジェクトでは、外国につながる子どもたちを対象とした写真ワークショップを行い、参加者たちは自身が暮らす横浜の風景を撮影することで、国際化が進む横浜の多文化共生社会を内側から「見える化」し、変わりゆく街を「記録」しています。
そして、本プロジェクトの講師を務めるのは「Picture This Japan」の代表・大藪 順子さん。大藪さんはコロンビア・カレッジ・シカゴを卒業後、アメリカ中西部の新聞社で専属フォトジャーナリストとして働く傍ら、全米・カナダで約80人の性暴力被害者を取材撮影し、プロジェクト「STAND:性暴力サバイバー達」を発表された経歴を持ちます。そんな大藪さんが本プロジェクトを始めた背景には、長年にわたりアメリカで外国人として生きてきた日々や、自身も性暴力被害に遭った経験を持つ一人として、写真を通し当事者たちが置かれている現状を社会へ問い続けてきた活動の軌跡がありました。
2020年度の参加者8名それぞれの目線でとらえられた、個性豊かな作品の数々を見つめながら、大藪さんにこれまでの5年間について話していただきました。
第三者が伝えるのではなく、当事者自身が語る機会を生み出したい
――まず、本プロジェクト発足の経緯について教えてください。
2015年に「川崎中一殺害事件」という、大変痛ましい事件が起こったことがきっかけです。この事件には、外国につながる子どもたちが関与していました。私自身、2013年にアメリカから帰国し横浜で暮らしていたのですが、それまで20数年間は外国人として日本の外で暮らしていましたし、外国につながる子どもを持つ親の一人としても、この事件は決して他人事ではありませんでした。また、外国につながる子どもたちが安心して過ごせる居場所や、ありのままの子どもたちを受け入れられる社会であったら、このような事件は起こらなかったのではないかとも考えました。
では、私には何が出来るのだろうかと考えたとき、それはやはり「写真」でした。写真は表現ツールのひとつであると同時に、無意識のうちに撮影者の思いが写り込むメディアでもあります。だからこそ、子どもたちの思いを社会に伝えるツールとして、写真を活用したいと考えました。そこで、外国につながる子どもたちが安心して素の自分をさらけ出せる場所づくりも兼ねた、写真のワークショップの運営を企画しました。横浜の写真団体と協力して準備を重ね、横浜市からの支援も受けて、本プロジェクトは2016年に開始したのです。
――大藪さんが子どもたちを写すのではなく、子どもたち自身が写真を通して思いを伝えるという方法は画期的ですね。この方法論は、どのように考案されたのでしょうか?
アメリカの新聞社で働いていたとき、当事者の思いを第三者ではなく当事者自身が伝えることの重要性について考える機会があったことが大きく関わっています。当時は新聞社専属のフォトジャーナリストとして、アメリカ大統領や大富豪といった社会の上層部から生活困窮者に至るまで、実に様々な人々を取材しました。アメリカはフォトジャーナリズムが進んでいますし、大学でも熱心にジャーナリズムについて学んでいたので、十分な知識は備わっている自負がありました。しかし自身が性暴力の被害に遭い、報道される側になってしまったことをきっかけに状況は一変します。
フォトジャーナリストとして、自身が撮影した写真を新聞に掲載することによる社会へ与える影響力については重々承知していたつもりでした。ですが、いざ自身が被害者の立場として報道されたとき、私は当事者のことをどこまで考えて仕事に取り組めていたのだろうかということや、無関心でいることは加害者を野放しにしている社会に加担することと同じであるということなど、様々なことに気が付きました。立場が逆転したことで初めて、自分の仕事の本質が理解できたのですね。その中で、第三者ではなく当事者自身が思いを伝える機会がもっと必要であると思った経験が、「横浜 インターナショナル ユース フォト プロジェクト」に繋がりました。
――なるほど。大藪さんご自身の体験をもとに考案された方法論だったのですね。
そうなんです。ですが、日本には当事者自身が思いを伝える機会があまりにも少ない。ネット上でのバッシングや誹謗中傷も多いです。だからこそ、自身が写される側ではなく、写す側に立つことで思いを伝えるという方法が有効だと思いました。子どもたちの目線で社会をとらえた作品を目にすることで、鑑賞者も様々な気付きが得られますしね。私自身、子どもたちから教えられることの方が多いですし、彼らの作品から新鮮なアイデアが得られることは、本プロジェクトに携わっている者の特権です(笑)
あなたにしか撮れない写真
――ワークショップでの活動について教えてください。
ワークショップは例年、8月の終わりから12月の初めまでの隔週の日曜日に全8回で行います。各回テーマを2、3個提示し、子どもたちにはそのテーマに沿って撮影をしてきてもらいます。今回は、「影」「反射」「シュルレアリスム」などのテーマに挑戦しました。例えば「シュルレアリスム」では、その歴史的背景を写真や絵など、様々な芸術品を見せながら説明した後に、「あなたが考えるシュルレアリスムとは何か」というテーマで撮影に取り組んでもらいました。
――なるほど。子どもたち一人ひとりがテーマについてどう解釈し、どのように写し出すのかという点が重要なのですね。
そうなんです。なので基本的に技術指導はしませし、子どもたちにはいつも「あなたにしか撮れない写真てなんだろう」と問いかけています。例えば、みなとみらいで綺麗な夜景を撮影したとしても、「ここに行けば誰でも撮れる」という評価しかしません。撮影者の思いが伝わる写真にフォーカスを絞ることの方が大切なんです。また、本プロジェクトでは誰もが自由に表現できる場であることも重要。ここでは、どんな表現も受け入れてもらえるという安心感を子どもたちが感じられなければ、このプロジェクトを行う意味がないんです。
個々の視点の違いから見出される多様性の面白さ
――プロジェクト開始から2020年で5年目ということで、今回は写真集の制作にも挑戦されたそうですね。
5年間の活動で、のべ64人もの子どもたちが参加してくれました。5回の写真展に出た作品を写真集として1冊にまとめるために、過去にワークショップに参加した経験を持つ高校生や大学生たちが中心となり、写真集制作に取り組みました。私は前書きの執筆と編集会議に顔を出すくらいで、写真集のコンセプトやタイトルの立案、構成、英語および中国語翻訳、広報活動まで、全て子どもたちが主体的に行ったんです。
――それは素晴らしい経験ですね!ちなみに、写真集のタイトル『横浜(koko) ―the views』にはどのような思いが込められているのでしょうか?
タイトルの「koko」には、場所を意味する「此処」と、個人を表す「個々」という2つの意味が込められています。子どもたちは決して特別扱いされたいわけではなく、個々の視点の違いから見出される多様性の面白さを、ここ横浜から発信していきたいのです。
外国につながる子どもたちは横浜に限らず、全国規模で増えています。また、「外国につながる子どもたち」と一口にいっても、親の仕事の都合により期間限定で日本に滞在している子、国際結婚の家庭の子、日本で生まれ育ったものの外国籍の子、親とともに日本に移民してきた子など、彼らが置かれている状況は実に様々です。
――「外国につながる子どもたち」という言葉では、決して一括りには出来ないのですね。本展や写真集の出版をきっかけに、より多くの人が多様性の持つ可能性について考えを巡らせる機会が増えると良いなと思います。
そうですね。今後の活動を通して、未来を担う子どもたちに、「あなたたち一人ひとりの視点がこれからの社会にとって大切で価値があるんだよ」と伝えられたらいいなと思います。そのためにも本展の巡回展を行いたい。外国につながる子どもたちの思いを表現できる場や方法があるということを示していくことが、今の私にできることだと思うので。
■横浜インターナショナルユースフォトプロジェクトの写真集『横浜(koko)The views』が、2021年に出版決定!外国につながる子どもたちの声が広く届けられるように、また彼らの自由な表現活動が続けられるように、出版資金の応援を行うことも可能です。詳細は、こちらをご覧ください!
【PICTURE THIS 2020 Yokohama Inter national Youth Photo Project 写真展 Exhibition】
会場:象の鼻テラス
会期:2021年1月9日(土) 〜 2021年1月17日(日)
10:00〜18:00(最終日は16:00まで)
https://www.zounohana.com/schedule/detail.php?article_id=1496
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