牧 ヒデアキ 写真展「浴槽というモノリス」

レポート / 2019年3月9日

~第二の人生を歩む浴槽たちの表情~

会場にて、牧さん。「作品の色調を揃えるために、すべて冬の曇天に撮影しています。ロケハンで道端の浴槽を見つけても、天候が曇りでなければ撮影せずに遠くから位置を確認するだけにとど
めます。あくまでポートレートなので、浴槽の一番良い表情を引き出したい。新鮮さを大切にしています」と、牧さん。

一日は、吉祥寺の有名なOLD/NEW SELECTBOOK SHOP「百年」の姉妹店として2年前にオープンした本屋です。スペースの一角にギャラリースペースを設け、週替わりで絵や写真などの作品展示を行っています。

色や形、状況、場所など共通点のあるものを上下セットで展示。かわいいタイル模様の浴槽、敷地をまたいである浴槽、埋め込まれた浴槽、木の影に隠すように置かれた浴槽など。誰かが周知したわけでもないのに、なぜか似通うものがあるのが不思議です。

現在展示しているのは、愛知在住の写真家・牧ヒデアキさんの写真集『浴槽というモノリス』第二版に合わせて行われている写真の展示販売です。会場を「浴槽まつり」にしたかったと牧さんが話すとおり、浴槽にフォーカスした写真作品がスペースいっぱいに並んでいます。
面白いのはただの浴槽ではなく、道端や畑の隅といった屋外で本来の目的とは違う使われ方をしている姿だということ。住宅リフォームなどで不要になった浴槽が、耐久性を高めすぎた故に破棄できなくなり、二次利用・再利用されているそうです。

「写真でしかできないこと、自分にしかできないことを表現したいと考えています。浴槽の収集ではなく、その奥にある人間の営みや可笑しさを際立たせたい」と、牧さん。

「全国の至るところで自然発生的に浴槽を水がめとして二次利用されている。そう理解できますが、そもそも存在自体が可笑しいから、皆目に入っていても見ようとしていません。写真になることで見えるようになるのが面白いと思います。また、均質な状態で並べて展示していることで、バリエーションの豊富さに気づいていただけるんじゃないでしょうか」

会場の一角に置かれた、浴槽の中を撮した作品。水に浮かぶジョウロから、浴槽が水桶として活躍しているのがわかります。

展示に合わせて制作された写真集『浴槽というモノリス』の初版と第二版。浴槽のような見た目の写真集にするため、出来上がった写真集を裁断して角丸にし、色を塗布し、表紙を切り抜き…と、すべて牧さん自身が手作業で行っているそうです。

写真集を手作業で浴槽の形にしていく工程を記した資料も展示されています。

別の場所で撮影しているにも関わらず、色や形、場所、状況、使い方などに共通点が生まれるのだと、牧さん。ここに写る浴槽たちは、空の下で何を考えているんだろうと想像しながら見る浴槽のポートレートは、無機物でありながら使っている人の姿が現れ反映された生き物のようにも見えます。
一方で、人類の技術発展がもたらした乱暴な自然の姿でもあり、モノについて考えさせられます。

お客様に写真集について説明する様子。手前は本屋としてのスペース。
写真集、文芸書、児童書などさまざまな本があります。

展示期間中、牧さんは全日在廊しているそうです。ノスタルジーと異質さが同居する不思議な世界観が気になる方や浴槽が好きな方は、ぜひ会場に足を運び、路傍の浴槽が見せる様々な表情を楽しんでみてはいかがでしょう。

【牧 ヒデアキ 写真展「浴槽というモノリス」】
会期:2019年3月7日(木)~3月11日(月)
12:00~ 20:30(最終日は19:00まで)
会場:一日(東京都武蔵野市吉祥寺本町2-1-3 石上ビル1F)
http://www.100hyakunen.com/news/ichinichi

牧さんのWebサイト
http://www.makira.jp/