鈴木 竣也 写真展「NEIGHBORS.」

レポート / 2022年11月2日

中心にはパラフィンとOHPフィルムで作成した作品を展示。

「隣人」という意味を持つ写真家 鈴木竣也さんの写真展「Neighbors.」。初個展「Neighbors.」にお邪魔したのは、去年の春になります。それから約1年と半年を経ての「Neighbors.」についてお話を伺いました。


会場が星美学園というミッションスクール内という、写真展としてはめずらしい場所での開催ですが、こちらで展示されることになったきっかけや経緯などお聞きしてもよいでしょうか。

私が小中と通っていた静岡サレジオは、今回展示させていただいている星美学園(現 サレジアン国際学園)と同じサレジアン系のミッションスクールです。在学中、私も課外活動の一環としてVIDES 静岡に参加し、フィリピンボランティア研修などのボランティア活動をしていました。
以前こちらでも取材をしていただいたギャラリーヨクトでの展示の際、VIDES JAPANとして活動されている星美学園のシスターが来てくださり、「ぜひうちの修道院でも写真展をしてもらえませんか」と誘われたことがきっかけです。今回コロナの状況などを鑑みて一年半越しの開催に至りました。
学園内の修道院という場所柄、ボランティアに興味のある学生達に見てもらうことを前提として、技能実習生という制度について知って貰えるような展示構成を意識しています。

同じテーマで撮り続けてこられ、4月にはベトナムにも行かれたとのこと。作品づくりの上で気持ちの変化などありましたら、教えてください。

以前の個展の際は、専門学校を卒業した直後でした。それから一年、母校で助手を勤めた後、今は地元に戻り、実際に工場で実習生と働きながら取材を続けています。立場や関係性がより直接的なつながりが出来たことで、多少なりとも変化はあると感じています。
写真家としてのエゴや焦りなどから、作品としての彼らのストーリーを他者に伝えるため、彼らのより深い部分を知りたい、見たい、撮りたいという思いが強くなりすぎてしまう時があります。被写体となる彼らに対しても、僕に写真を撮られることの意味を伝えることで、彼らの中で撮られることに対する気持ちも変化してきているのではないかと感じています。ただの記念写真ではなく、「記録としてまた表現として撮影されるということ」は、アートへ対する文化的土台が全く違うこともあり、理解してもらうことが非常に難しいと感じています。
被写体となってくれる人たちへ気持ちの整理と感情にしっかり配慮しなければ、このドキュメンタリーが成立しないのは言うまでもなく、関係性を壊す理由になってしまったら元も子もないと、地元に戻ってからの生活で強く感じるようになりました。

前職を退職したタイミングで、2週間ベトナムに訪れ、ベトナムに帰国した元実習生や、これから日本に来るために研修している人達や、実習生達の地元を中心に取材をしました。
ベトナムに行くこと自体が初めだったこともあり、取材の成果としては満足のいく写真を撮ることはできませんでしたが、ベトナムと日本の文化的な違いを実際に肌で感じることが出来たと思っています。例であげるとすれば、滞在中何かあるごとに集まってもてなしてくれ、後座を囲んで呑んで騒いで。それは、日本でもことあるごとにお呼ばれしたパーティが、向こうでも日常的な光景なんだと分かりましたし、その『普通』を日本でやってしまうとトラブルに繋がりかねないことを、何度説明しても理解してもらえない一つなのかなと感じました。

そういった普遍的な文化の違いを受け入れつつ、それぞれの価値観や距離感を作品として組み込んでいけたらなとは漠然と考えています。

ただまぁ、現時点では、実習生と一緒に働いている。雇う側の人間が身内にいる。という環境をいかした取材をしていけたらと思っています。
そしてタイトルにもある通り、まず第一として、彼らの隣人になれるような関わり合いをしていきたいです。

写真展の一番最初の写真になり、富士山の7号目付近から、静岡県側(私がいつも撮影しているエリアの方向)の夜景を撮影したもの。

鈴木さんの展示は空間の構成について非常に意識されているということを前回も感じました。今回の展示で大事にされたコンセプトや見せ方など、教えてください。

冒頭の質問でも言及しましたが、今回はいわゆる写真やアート専門のギャラリーではありません。通路も狭く、作品を見ることに対して決して適した場所とは言えません。学校やボランティア団体主催ということもあり、知って感じるという部分に力をいれました。

見にくる人たちの層も今までとは全く異なるため、普段、写真を表示として見ない人たちにたいしても、ぱっと見たときに綺麗!とかこの人の眼差しに引き込まれる。などといった直感で感じやすい生活感や表情、風景などの写真をセレクトしました。また前回の個展のときと同様に、インスタレーションで彼らのことをより知ることで見え方が変わり、隣人達にたいして目を向けてほしいという部分は変わっていません。

左側は、私と共に働いている実習生アン。右側は機械保全の実習生として働くヒエウ。
二人のエピソードを作品に重ねてプリントしたものになります。より彼らの人となりに近づけそうです。

廊下側のキャプションの無い写真群と、教室側の資料や彼らの言葉を見ることで、さまざまな視点から彼らの生活を知ってもらうことを意識しています。パネルにまとめるさいに参考にした資料や、書籍、ほかの表現方法として、映画やファウンドフォトのアイディアを利用した作品を紹介することで、より多角的に見ている人たちにアプローチできる方法を模索しました。
そして最後にまたパラフィンとOHPフィルムで作成した作品を配置することで、その後ろから差す日の光によって見え方が変わるという体験を、自身の生活の中へ昇華させてほしいという思いを込めています。

また、展示を始めて早2週間、来場してくださった方の意見のなかで、学園内の修道院という普段は入ることが出来ない場所や、空気感の先にある展示ということで、より今までの生活圏から一歩踏み込んだ場所にある現実を知ることができたと言ってくれた人がいました。
意図しなかった部分でも心のフィルターを開ける要因が、それぞれの中にあったことを嬉しく思っています。

私も写真展を拝見して以来(ベトナム人技能実習生)について気になるようになり、ニュースなどで目にするとどういった状況なのかといった関心をもつようになりました。そういった声も増えているのではないかと思いますが…

日越ともいき支援会さんをはじめとした支援活動や実習生の実情を報道するメディア、先日の自由権規則委員会の日本審査会においての「技能実習制度」に対する言及など、国際的にも非常に注目されていると思っています。
決して安い労働力ではない「技能実習制度」。進む円安によってベトナム人にとってのメリットが減り続けるなか、本音と建前がこんなにも露わにされたこの制度に未来があるのか。と私も感じています。それもこれも、さまざまな視点や立場からのエピソードを知ることができたからです。

「写真家」として、今の私に何が出来ているかは不安しかありません。ただそれでも、まずはアンとヒエウ。さらに父との関わりなどの中から見えてくる、よりマクロなこの国の姿を撮り続けることが、何かの助けになれたらいいなと思っています。


物質的に近くにいる隣人たちを、私たちは見て見ぬふりをすることは多いのではないでしょうか。作品の中に存在する彼らは、遠い自分に関係のないところから、コンビニや飲食店といった身近なところに。今や一緒に働いたことがあるといった人も増えてきています。その隣人たちにとって、日本人とは、日本は!ということをすでに試されているのです。彼らの姿がよりリアルに感じられる、普段行くことのない場所(会場)で見る写真展、ぜひご覧ください!

この2枚に関しては、展示空間のちょうど真ん中に位置していて、日常的なカットの間でそれぞれが抱えるさまざまな思いがあることを表しているカットを配置しました。
上段の作品は、親を亡くした実習生が手を伸ばす姿とそのエピソードを。
下段の作品は、ベトナム訪問中に訪れた、送り出し機関の宿舎の黒板に残されていた言葉になります。コロナ禍で約2年入国することができず、変化していく社会状況や将来に対する不安が垣間見えます。

ステートメント

【VIDES JAPAN 特別企画 鈴木竣也写真展「Neighbors.」】
サレジアン国際学園中学高等学校 内 聖マリア修道院 パストラルセンター(要電話予約)
会期:2022年10月16日(日)~11月13日(日) 
10:00~16:00
※会期は予告なく変更の可能性がございます。 https://videsjp.org/ にてご確認ください。
※作家は週末のみの在廊予定です。作家SNSにてお気軽にお問い合わせください。

[鈴木さんのSNS]
https://twitter.com/shnszy_photos
https://www.instagram.com/shnszy_photos/


学園施設内のため、ご来場には来場予定日の前日までに事前連絡が必要となります。

【お問い合わせ先】
「聖マリア修道院」受付電話番号: 03-3906-0050
お電話受付時間 : 平日 8:00~17:00 / 土日 8:30~16:00
最初に修道院内パストルセンターで開催されている写真展を鑑賞したい旨を明確にお伝え下さい。

【事前連絡必要事項】
・見学希望日時
・人数
・名前 ※大人数の場合は代表者名のみ

来場当日は、サレジアン国際学園中学高等学校正門右手すぐの守衛室にて、修道院での写真展鑑賞の旨と予約時間と名前をお伝えいただき、「来校者証」をお受け取りください。
お帰りの際に守衛室にご返却をお願いいたします。

【アクセス】
〒115-8524 東京都北区赤羽台4-2-14
サレジアン国際学園中学高等学校 内 「聖マリア修道院 パストラルセンター」

パストラルセンターまでの道のり
星美学園正門からお入りいただき、左手グラウンドとテニスコートの間の路地をお進みください。
正面に見えます、聖マリア修道院の受付にてご記帳いただき、案内にしたがってパストラルセンターへお進みください。