京都写真美術館ギャラリー・ジャパネスク2Fにて石田道行 写真展「人は森に生かされている」を2022年3月15日(火)〜3月27日(日)まで開催しております。
写真家の石田道行さんにインタビューしました!
──ブナの森との出会いについてお聞かせください。
1997年に信州に移住した頃は、季節の旬のものを追いかけて撮影していたんです。ある日、とある写真展で残雪のブナの森の写真を見て、こんなところに行ってみたいなって思いました。
その写真展の翌年の2000年5月、撮影の帰りに立ち寄った飯山の北竜湖で不思議な老人に話しかけられました。関西から信州へ移住した動機に始まり、写真を撮り始めたきっかけや広告写真に携わった20代のこと、自転車で北海道を旅した10代のことなど…質問攻めで2時間にわたりそれまでの半生を語るハメになりました(笑)。すると、老人は「あなたに行ってもらいたい場所がある」と言い、おもむろにスケッチブックに地図を描き始め「話を伺って、あなたはそこへ行くべきだと思う」と言われたのです。
ご老人と別れた後、次回のために地図に描かれた森の入口まで確認に向かいました。到着した時には既に薄暗く、5月下旬だというのにまだまだ残る雪の上を霧が這う光景に、これまで見てきた山とは違う雰囲気を感じました。カメラにはフィルム4枚しか残ってなかったけど、老人の「あなたはそこへ行くべきだ」という言葉が妙に気になり、いま行かなければならない気がしたのです。
──さっそくブナの森に魅せられたんですね。
そうですね。そこで車中泊し、午前3時頃から雪の積もった林道を2時間くらい歩いたところで朝陽が樹々を真っ赤に照らし始めたので、あわてて息を切らしながら走りました。そのときに撮った写真がこちらです。
晴れていたのはこの時までで、そのあと辺りが暗くなり突然雷鳴が轟き土砂降りの雨になりました。と同時に陽射しも届き、霧が地を這いブナの新緑が逆光線で光るなんとも幻想的な光景が広がりました。
夢中で撮影するまでもなく残りのフィルムは使い切ってしまいましたが、残念とは感じず、その後はその場に座ったまま目の前の光景をボーッと眺めてました。これが僕のブナの森との出会いです。感動したというよりすごく不思議な感じで、雨が降っているのに不安でもなく、ひとりで森にいるのに全然怖くありませんでした。森に包まれ、守られてるっていうような感覚を初めて持ちました。これが森だったんだなと感じ、その時から森のことを考え始めました。
自然が大好きでしたが、自然っていうものがどういうものか全く理解していませんでした。この日以来、いろんなことが見えてきたというか、いろいろ考えるようになったなって。僕が気づいたことを写真で伝える、僕はそのためにここにいる。「あなたはそこへ行くべきだと思う」あの時の老人の言葉の意味を今も考えています。
──どのくらいの頻度でブナの森の撮影に行っていますか?
平均で年20回くらい森の撮影に行っています。1回撮影に行くと1泊か2泊して、300〜500くらいのシーンをスナップ撮影することが多いですね。
──オリジナル創作フレームを作ろうと思った理由は?
写真プリントの購入者から額装をしてほしいと言われたので額を探したのですが理想的なものがなく、妥協できるデザインの額でも3万円もしたため、自分で作ろうと思いました。知り合いに恵まれたこともあり、木工の技術を身につけることができました。
──写真用紙や展示のこだわりについて教えて下さい。
現在は一般的な写真用紙を使っています。やはり、写真の階調やコントラストを理想的に表現してくれることが大切で、そういった紙を求めてますね。今回の展示では、マット紙、絹目調、微粒面光沢の3種類を使っています。
作品とは、撮ったときの感動をどう伝えるかが大切です。どういう意図でプリントするか、どういう大きさで展示するか、どういうキャプションをつけるか、そこまでやって作品だと言いたいです。画像データで終わらせるのではなく、撮影から作品づくりまで完結させることにこだわりを持っています。
──これからもブナの森の撮影を続けられますか?
ライフワークなのでこれからも森の撮影を続けていきます。ただ、これからは見せること、発表することを頑張っていきたいです。今まで撮った写真を展示して、多くの人に僕の言いたいこと、見たことを伝えることがこれからの自分の仕事なのかなと思っています。
──最後にメッセージをお願いします。
人は森に生かされている、森がなければ人は生きていけないということですね。本物の森を見て、感じて、そういう事を考えてほしいです。メディアの情報を鵜呑みにするのではなく、自然の関係を根底から見直してゼロから考えたらちゃんと分かるはずです。今回の展示が森について考えるきっかけになればうれしいです。
■石田 道行(Michiyuki Ishida)
1961年姫路市生まれ。
1997年に松本に移住し信越国境付近のブナ原生林を撮影フィールドに「森に学んだ自然観」を個展で発信する。
写真を作品として完結すべく大判プリントからオリジナルのフレーム製作に取り組み「写真工房 道」を開設。
【石田道行 写真展「人は森に生かされている」】
会期:2022/3/15(火)〜3/27(日) 11:00〜18:00
会場:京都写真美術館 ギャラリー・ジャパネスク 2F
Web写真展公開中!