人工透析を導入した直後、あれもこれもと必死に写真の活動に打ち込んでいる僕の姿を見かねた
ある方から「生き急ぎなさんな」と忠告された。
やがて、コロナ禍が始まり、緊急事態宣言が発出されると効率を最優先にした世の中のあらゆる活動が突然停止した。立ち止まって、今までの時間の使いかたや生活の在り方を見直す絶好の機会が訪れた。
僕の人生の残り時間がどのくらいあるのかは知る由もないが、とにかく先を急がない決断をする。
その一つが通信課程の大学でじっくりと時間をかけて「芸術」を学ぶという選択。もう一つが昼でも露光時間がかかる「ピンホール」で作品をつくるという選択。さらに潜像が現れるまでに時間のかかる「チェキ」という選択。
コロナ禍という特殊な環境で始めたこれらの活動を通して少しは「待つこと」や「急がないこと」を学べただろうか?もう「忙しい」と口にするのはやめようと思う。
たとえ、世の中がどんなに忙しい日常に戻ったとしても・・・
旅しない写真家 生 越 文 明
日本でもっとも古い自主ギャラリーPlaceM。その横浜店として、2021年に横浜駅からほど近い反町にオープンした、PlaceM Yokohamaにお邪魔してきました。ギャラリーは静かな住宅街の一画にあり、ゆっくりと作品鑑賞ができるギャラリーが1階、2階ではA2ノビサイズまでプリントできるサービスもされているそう。
生越さん急病のため取材はかないませんでしたが、作品についてのメッセージをいただきましたので、掲載させていただきます。
ピンホール作品は全て室内撮影、 チェキは全て屋外で撮影されています。
物忘れの激しい日本人は、もうコロナ禍のことを忘れてしまったようですが、全てに自粛を強要された時代にあって遊び方、日常の過ごし方、仕事、生き方の見直しを強いられました。それはいい点も悪い点もありました。そんな時代に考えたのが人生の過ごし方、時間の使い方でした。また、高画質デジタルカメラで大量の画像を量産することにも疑問を持つようになりました。そこで時間というものを感じる、撮影スタイルを選びました。 その一つがオリンパス(OM SYSYEM)PEN-Fにピンホールを付けた機材での撮影です。
最初は屋外で撮っていましたがあまりに普通な感じで、室内に限定して撮るようにしました。絞りが極小(f72~f144)で光量も少ないのでファインダーの中は真っ暗、露光時間も20秒〜60秒くらいかかります。当然三脚の出番となりますが、観光都市横浜では室内三脚使用は禁じられており、手近なもので創意工夫をし、カメラを固定して撮影しました。 写真用紙は数ある和紙のなかから竹尾のパルパーを選択しました。和紙系の写真用紙の大半は暗部が潰れがちですが、この用紙では細部が現れます。
チェキは富士フィルムinstax min Evo(400万画素弱)での撮影です。理由は良く分からないのですが、撮影していてとても楽しいカメラです。プリントに画像が現れるまで90秒ほどかかるのが、暗室作業のような感覚があるからでしょうか。特に苦労したのはモノクロ本来の階調です。たくさんの種類のフィルムを使ってモノクロ撮影しましたが思うような階調が得られませんでした。そんなことに拘るようなカメラではないとの声もありますが、とにかく拘りました。
銀色枠、黒色枠のあるフィルムはアーバンに色が転び、モノクロ専用フィルムに至っては、シアンが被りました。まるで染料インクプリンターのCMYKと、カメラのRGBと同様の問題にぶつかりました。
チェキフィルムの現像方法はCMY混合が基本で、諦めきれずメーカーにも問い合わせをしましたがあまり良い成果はありませんでした。ひとつ明確になったことは、現像温度が25℃であることがベストであること。結局、自分の眼を信じて選んだフィルムは最もスタンダードなものとなりました。
今回は、二つの新しい作品のスタートになる展示です。今後、どういった展開になるか自分でもわかりませんが次回の発表をお持ちいただければ幸いです。
写真展は28日(日)までの開催になります、光と影を大切にされている生越さんのモノクロ作品の数々、ぜひ足をお運びください!
【生越 文明 写真展「僕の大切なこと」】
会期:2024年7月13日(土)~7月28日(日)
平日:13:00~19:00
土日:12:00~18:00(最終日17:00まで)
会場:PlaceM Yokohama(月曜定休)
placem.yokohama/
生越さん Webサイト
kasutera.wixsite.com/ogoshfmi
生越さん X
x.com/ogoshfmi