京都写真美術館ギャラリー・ジャパネスク2Fにて「榎本敏雄 プラチナプリント展 薄明の櫻」を2021年4月6日(火)から4月18日(日)まで開催しております。
写真家の榎本敏雄さんにインタビューしました。
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—本展「薄明の櫻」はどのように制作されましたか?
桜の時期になると皆さん青空の下でピンクの花を見て、友人や家族で集まって花見の宴を開くじゃないですか。そうすると作品を撮りにくいんですね。それでいつも写真を撮るのは人のいない雨の日か早朝になるんですよ。
だいたい2~3時に起きて、撮影現場に4時頃に着くようにしています。真っ暗な中でカメラに三脚を据えて、ストロボを持って撮って回る。
ほとんどの場合がバルブ撮影なので、1分の場合もあれば5分の場合もある。
でも真っ暗だから何も写らないわけだよね。ストロボの光のところだけが写って、空はだんだんと薄ぼんやり明るくなってくる。
木の後ろに行ったり、横からストロボを焚いていくと、桜がさらに白く、暗闇の中から浮き上がってくるんだけど、その浮き上がりは現像するまでわからないわけですよね。
櫻の花の狂おしいまでの生命と死のせめぎ合いを撮りたいと思っています。
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一面プールのように水たまりになっていて、びっくりして撮影した。
美しい場面に出会うことが大事。
—桜を撮り続けてどのくらいになりますか?
30年以上、全国の桜を撮っていますね。南から北へ順ぐりと1ヶ月くらい旅することもあります。
桜の季節になるとソワソワしてきて、寝ていても風の音が気になって「あー、これは散っちゃうかな。これは行かなくちゃ」とか、いつもそんな風に思っていて、ところが桜って満開になるまではどんな風が吹いても散らないんですね。満開になった途端に一斉に散りだすもので、8割方咲いているとほとんど満開に見えるけど、それは散る合図では無くて、みんなが咲き終わった途端にパーっと散っていきますね。
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—プラチナプリントで制作しようと思ったきっかけは何ですか?
フィルムや印画紙が少なくなり、気に入った紙をなかなか選べなくなっちゃったので、和紙にプラチナプリントをやってみようかと思い2014年頃から始めました。
この技法は、密着焼きでなければいけないので、拡大ネガを作るんですね。昔は印刷用のフィルムで拡大ネガを取ってましたが、今はインクジェットネガを使ってます。
古典技法のプラチナプリントと現代の技術が溶け合ったという感じですね。
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—和紙はどのようにセレクトしましたか?
高知県いの町にある高知県立紙産業技術センターに行った時に、職人の方にいただいた紙にテスト焼きをしてみたらとてもマッチングして良かったんです。
ただ、雁皮(がんぴ)の量によって皺の出方が違ったり、着物のちりめんのように細かい皺が入っていて、最初の頃は難しいなと思って諦めていたんですが、職人さんにがいろいろ研究してくださり、紙質を雁皮=50%、楮=50%の和紙を作ってくださいました。
柔らかな風合いとツヤがあってとても綺麗な土佐雁皮紙を使えるようになりました。
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—今後の活動についてお聞かせください
ジジイになっちゃったからな(笑)
死ぬまで頑張って作品づくりをしたいですね。ボケないようにね。一生懸命プリントをして、指先を使うとボケないからね。
福島県の相馬で、年に1回の「相馬野馬追」というお祭りがあって、先祖伝来の甲冑を着て、馬に乗って、昔の侍のようになって野原を疾走するんです。
そういう伝統的なお祭りを10年近く撮っていて、まだ1回も発表をしたことが無いんだけど、この作品では、相馬人の強さみたいなものを表現したいと思っています。
かなり写真が貯まっているので、ゆくゆくは相馬市で展覧会を開催しようかと考えていて、地元の人に見ていただければと思います。
もちろん桜の撮影はこれからも続けていきますよ。
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◼︎榎本 敏雄(Toshio Enomoto)
日本真家協会会員。
1947年東京生まれ。
1970年から2年間、日本デザインセンター入社。
1972年4月より7ヶ月シルクロードを自動車で踏破。
20代後半フリーで毎日新聞出版局、平凡社「太陽」などでグラフジャーナリズム写真に従事。
30代、コマーシャル写真やファッション写真などを中心に仕事。
大学時代からシリアス写真を継続して撮影、現在に至る。
【榎本敏雄 プラチナプリント「薄明の櫻」】
会期:2021/4/6(火)~4/18(日) 11:00~18:00
会場:京都写真美術館 ギャラリー・ジャパネスク 2F
WEB写真展公開中!